実施 2025.06 ・ 更新 2026.08.13
1,000社超の企業調査をAIで半自動化、資産運用会社が対話の時間を生み出した方法
プロジェクト期間:半年〜 1年
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 下調べに時間を取られ本業が進まない
- 担当者ごとに評価がぶれる
- 対象が多すぎて一部しか手が回らない
どのようなAIの取り組み?
公開文書をもとにしたESG評価の机上調査を複数のAIを組み合わせた仕組みで半自動化し、調査対象を投資先のほぼ全てに広げたAI取り組み
業種
資産運用(金融・保険)
取り組み領域
運用部門/ESG評価・エンゲージメント業務
使ったAI
複数のAIを組み合わせたAIエージェント(生成AI・LLM)
主な成果
机上調査の対象を投資先ほぼ全て(1,000銘柄超)に拡大
農林中金全共連アセットマネジメント(NZAM)は、投資先企業との「目的を持った建設的な対話」(エンゲージメント)の前段にあたる机上調査に、AIを組み込む取り組みをHEROZと共同で進めました。有価証券報告書や統合報告書といった公開文書を読み込み、ESGの観点で評価する作業は1銘柄あたり数時間を要し、1,000社を超える投資先の全てを人手でカバーすることは難しい状況にありました。両社は2024年10月に構想策定を開始し、業務内容を把握するアセスメント、活用の妥当性を確かめるPoC(小規模な試験検証)を経て開発に進み、2025年6月から本格運用に入っています。NZAM側が評価基準と教師データを用意し、HEROZ側がモデルを開発、その出力をNZAMが評価して再調整するというやり取りを繰り返す形で作り込まれました。
出典:NZAM - HEROZ株式会社(ヒーローズ) 発行元:HEROZ株式会社
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
投資先の数は1,000社を大きく超える一方、ESG評価の机上調査には1銘柄あたり数時間かかるため、現実的には時価総額上位の銘柄から手をつけるしかない。加えて、評価項目や評価軸を決めていても担当者の主観は入り込み、各銘柄の情報を常に最新へ更新することも難しく、評価した時点と現在との間にずれが生まれていました。
見えていた課題は処理量の多さですが、その裏にあったのは、本来価値を生む工程と、そのための準備工程が同じ人の時間を奪い合っていた構造ではないでしょうか。運用会社に求められているのは投資先との対話そのものであり、公開文書を読んで改善余地を探す作業は、対話に入るための下ごしらえにあたります。人手の総量が決まっている以上、下ごしらえに時間を割けば割くほど対話に使える時間は減り、逆に対話を優先すれば調査の網は狭くなる。この二者択一を崩さないかぎり、対象銘柄を増やしても評価の質を保てないという行き詰まりがあったと考えられます。
どうやって、うまくいったのか
効いたのは、AIに任せる範囲を「定例的・定型的な判断」に限定して設計したことだと考えられます。この取り組みでは、公開文書を読み込んでESGの観点から評価するという工程を切り出し、対話そのものは人が担うという線引きが最初から明確でした。業務内容を把握するアセスメント、活用の妥当性と実効性を確かめるPoC、そして開発という順序を踏んでいる点も、「AIで何かすごいことをする」ではなく「今この作業をAIに置き換えられるか」という問いから出発した設計思想の表れと読めます。
もう一つの山場は、教師データの偏りへの対処でした。評価が高い開示内容は該当するテキストを拾いやすい一方、評価が低いケースはそもそも記載がなく、教師データが良い例に偏って評価スコアが高く出すぎる傾向が生じています。ここでHEROZ側から提案されたのが、LLM(大量の文章を学習した言語AI)に要約文を作らせ、その要約文に対して評価を付けて教師データにするという工夫です。文章が存在しない状態を扱えるデータの形に変換したわけで、評価にメリハリを付けるうえでの決め手になったと見られます。データが「ない」ことをどう学ばせるかは、文書評価のAI化でつまずきやすい部分であり、この対処の仕方は他の業務にも通じる考え方でしょう。
説明責任を業務要件として最初から掲げた点も、実用性を左右したポイントです。機関投資家として評価結果を外部に説明する立場にあるため、出力が中身の見えない状態になることは避けたいという要求があり、実現できるかは当初は見通せていませんでした。結果として、判断の根拠となった公開文書の該当箇所を参照でき、重要な箇所がハイライトされる形に設計されています。さらに、判断基準は時間とともに変わるという前提を置き、新しい判断事例を教師データとして追加して継続的に更新していく体制を敷いたことも、出来合いの仕組みでは得にくい持続性につながっていると考えられます。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
机上調査の対象範囲は、人手では時価総額上位に絞らざるを得なかった状態から、TOPIX採用銘柄全体、すなわち投資対象企業のほぼ全てへ広がりました。公開情報が更新されると評価も速やかに更新され、日次で最新情報に基づく評価を参照できる状態になっています。AIによる統一的・定量的な評価により企業間の比較や同一企業の時系列比較も可能になり、机上調査に費やしていた業務時間が大幅に減った分を、投資先との対話に振り向けられるようになりました。社内では、この仕組みを部内で紹介したところ他グループから自分たちの業務でも使いたいという声が上がり、新たな活用アイデアが生まれています。
うちでも使える?
応用が利きそうなのは、判断の材料が文書としてそろっていて、評価軸をある程度言葉にできる業務です。取引先の開示資料の読み込み、申請書類の一次確認、案件の下調べなど、「誰がやっても同じ結論になるべき」工程を抱えている部署なら、検討の余地はあるでしょう。反対に、材料が担当者の頭の中にしかない業務や、相手との関係性や交渉の機微が結論を左右する場面では、AIに寄せられる範囲は限られます。この事例でも、対話そのものは人が担う前提が崩されていません。
もう一つ心に留めたいのは、教師データが偏りやすいという落とし穴です。良い事例は資料として残っていても、悪い事例は「記載がない」という形をとるため、そのまま学習させると甘い評価に寄りがちになります。自社で試すなら、まずは評価項目を一つだけ選び、良い例と悪い例をそれぞれ数社分、判断の根拠が文書のどこにあるかまで含めて書き出してみる。根拠を指し示せない項目が多いようなら、AI化より先に評価軸の整理が必要だというサインかもしれません。
この事例は2025年6月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:文書・ナレッジ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
プロジェクト実施・導入企業
HEROZ株式会社
AI事業を展開する企業。将棋ウォーズなどのAI(BtoC)サービスやAI(BtoB)サービスを提供し、金融ユニットを擁して金融業界の業務課題への理解を強みに、ソリューション提案からAIシステム開発までを伴走支援する。
農林中金全共連アセットマネジメント株式会社
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