実施 2024.07 ・ 更新 2026.08.15
JALカードがAIの仮想顧客に議論させ、購買率1.7倍を確認した実証実験
プロジェクト期間:1年 〜 2年
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 顧客データを見ても本音が読めない
- グループ調査に時間と手間がかかる
- 販促のターゲット選びが勘頼み
どのようなAIの取り組み?
クレジットカード会員のデータからAIの仮想顧客をつくり、その議論をもとにターゲットを絞って購買率1.7倍を確認した実証実験の取り組み
業種
クレジットカード(金融・保険)
取り組み領域
マーケティング/顧客分析・販促ターゲティング
使ったAI
複数の生成AIを議論させる仕組み(LITRON MAS、Azure OpenAI)
主な成果
実証実験で高級ワインの購入率が従来の1.7倍
JALのマイレージとクレジットカードを組み合わせたサービスを展開するJALカードは、会員一人ひとりの潜在的なニーズをつかむ方法を探るなかで、2023年5月からNTTデータとアイデア出しを重ね、顧客を「立体的」に捉え直す構想に取り組んできました。そこで形になったのが、会員データをもとに生成AIで複数の仮想的な顧客像(AIペルソナ)をつくり、その仮想顧客どうしにグループインタビュー形式で議論させるという方法です。議論の場にはNTTデータのLITRON MASを使い、稼働基盤にはAzure、応答を生む部分にはAzure OpenAIが用いられています。2024年7月から2025年3月まで実証実験として実施され、そこで見えた顧客像をもとにターゲット層を決めて高級ワインを販売したところ、購入率は従来の1.7倍になりました。
出典:マルチエージェントが導く顧客理解の深化 ── JALカードと NTTデータが、Azure を基盤とする AI ペルソナ活用により購買率 1.7 倍を実現 | Microsoft Customer Stories 発行元:Microsoft
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
JALカードの手元には、JALのマイレージ情報とカード利用履歴という、他社が簡単には持てないデータが積み上がっています。それでも会員像を分析しようとすると理解が表面的なところで止まり、一人ひとりの潜在ニーズまでは届かない。会員属性や利用情報を使った販促支援自体は競合他社も手がけており、データを保有していること自体は強みになりにくい、という認識も背景にありました。
編集部の見立てでは、この困りごとの本質はデータの量や精度ではなく、購買の記録には「なぜそれを選んだのか」が写らないという点にあったのではないでしょうか。人は他人から見て不合理に映る選択をすることがありますが、本人の中には本人なりの筋道がある。その筋道は履歴の集計の外側にあるため、数字をどれだけ丁寧に並べ替えても輪郭が浮かんできません。自社の見方を「平面的」と表現し、それを立体にしたいと言い換えた社内の言葉遣いには、この構造への自覚がにじんでいます。
どうやって、うまくいったのか
実証実験の設計でまず目を引くのは、会員データをそのままAIに渡すのではなく、議論できる状態まで段階を踏んで作り替えている点です。約360万人分の会員データから条件に合う一部を抽出し、主として購買行動をもとに12のクラスタへ分け、それぞれのクラスタのライフスタイルを想定したうえでAIペルソナへ変換する。数字の集合を、暮らしぶりを持った人物像へ翻訳するこの工程を挟んだことが、AIどうしの会話を単なる雑談ではなく意味のある議論に成立させた要因だと考えられます。
議論の質を左右したのは、話し合いの進め方をあらかじめ決めておいたことです。LITRON MASには「会議設計」と呼ばれるノウハウが組み込まれており、この取り組みでは、各ペルソナがまず自分の主張を述べ、そのうえで他者を批判する、という順序が設定されました。さらに、生成AIが担うファシリテーター役が、どのペルソナが最も購入しやすいかを判断する役割を持っています。生成AIに自由に会話させるのではなく、発言の順番から結論の出し方までを型として定めた設計が、議論を発散させずに施策で使える示唆へ着地させたのではないでしょうか。
もう一つ効いたのは、一回の調査を軽くして回数のほうを稼ぐという考え方です。ペルソナを入れ替えながら30回程度の議論を重ね、毎回4〜5名程度で話し合わせる進め方は、一度の調査で正解を当てにいくのではなく、繰り返しながら精度を上げる前提に立っています。加えてこの取り組みは、NTTデータがJALカードを支援するという一方向の関係ではなく、両社の共同検討および検証として進められました。データと会員理解を持つ側と、複数のAIを議論させる仕組みや会議設計のノウハウを持つ側が並んで手を動かす体制は、試行の設計を素早く直しながら回すうえで働いたと見ています。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
AIペルソナの間では、実際の人間どうしでは起こりにくい他者批判を含むやりとりが忖度なく展開され、マーケター側の先入観を覆す結果が得られました。その内容をもとにターゲット層を決めて高級ワインを販売したところ、購入率は従来の1.7倍に。それまで購入率が低かった高級ワインセットの販売拡大にもつながっています。調査の速さも利点として挙げられており、人を集めて行う場合は設計と準備を含めて1回あたり2か月程度かかるところ、AIペルソナへのインタビューは準備込みで2週間程度から始められ、1回は5分程度で終わります。実証実験は2025年3月まで行われ、2025年4月からは新たな目標を掲げた共同検討と検証が続いています。
うちでも使える?
応用しやすいのは、顧客の買い方の違いがデータとして残っていて、いくつかの集団に切り分けられるだけの母数がある事業です。そして、議論から出た仮説を実際の販売や案内で試し、購入率のような指標で確かめられる出口があること。この二つがそろっていれば、規模の大小にかかわらず同じ考え方を持ち込めます。
逆に難しいのは、取引の頻度が低く履歴が数えるほどしかない場合や、顧客の情報が担当者の記憶や紙の控えに散らばっている場合です。仮想の顧客像を組み立てる土台がないため、生成AIに人物像を書かせても、誰の話をしているのか分からないものになりかねません。また、議論はあくまで仮説であって、検証する場を用意しないまま眺めるだけでは、面白い読み物が増えるだけで終わります。
最初の一歩としては、直近の売上データから買い方の異なる顧客を2〜3グループだけ切り出し、それぞれの人物像を生成AIに書かせてみてはどうでしょうか。それを販売や接客の担当者に読ませ、「こういう人はいる」「いや、実際は違う」という反応を集める。そのずれが、深掘りすべき論点の在りかを教えてくれます。
この事例は2024年7月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
AIツール・サービスの提供形態
導入部門・データ活用
導入部門:マーケティング
活用したデータ:数値・Excel・ログ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
AIモデル・ツール
プロジェクト実施・導入企業
株式会社NTTデータ
コンサルティング事業本部などを擁するIT企業。AIペルソナどうしが議論する場を提供するサービス「LITRON® Multi Agent Simulation(LITRON MAS)」を2024年7月に発表し、自社の仮想デスクトップ基盤「BizXaaS Office」上で提供。"Smart AI Agent™" をコンセプトに、顧客のビジネス変革を推進している。
株式会社JALカード
出典・参考情報
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