実施 2024.05 ・ 更新 2026.10.11
高精度測位×AIで漁船の操業内容を自動推定、実証で判定一致率80〜100%
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 船ごとの操業の中身が記録に残らない
- 手書きの操業日誌が負担になっている
- 位置データのずれで分析が使えない
どのようなAIの取り組み?
衛星の高精度測位とAIを組み合わせ、漁船の航跡から操業内容を自動推定する仕組みを実証した取り組み
業種
漁業者支援サービス(農業・林業・漁業)
取り組み領域
漁船の操業記録・水産資源評価
使ったAI
航跡データを学習したAI解析エンジン(機械学習)+衛星高精度測位
主な成果
実証でAI判定とヒアリング結果の整合性80〜100%を確認
長崎県佐世保市を拠点に漁業者支援サービス「トリトンの矛」を展開するオーシャンソリューションテクノロジー(OST)が、2023年度に内閣府のみちびき実証事業として実施した取り組みです。一般的なGPSでは位置のずれが大きく、AIによる操業解析がうまく機能しなかったため、準天頂衛星みちびきのSLAS(サブメータ級の測位補強サービス)に対応したIoT機器を自社で開発し、全国10隻の漁船に搭載しました。30秒ごとの航跡に対し、漁業者へのヒアリングをもとに「仕掛け投入」「仕掛け回収」など11種類のラベルを付け、それを学習データとしてAIエンジンが出港から帰港までの挙動を推定します。検証では、ヒアリング結果とAIの判定が80〜100%の精度で整合しました。
出典:[実証2023-1] OST:みちびきを利用したAIによる漁業操業情報の自動作成|利活用事例集|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト - 内閣府 発行元:内閣府
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
トリトンの矛は、漁船の航跡を自動で記録して電子操業日誌を作るサービスとして2022年9月に始まりました。ところが当初搭載していた一般的なGPSでは、洋上にいる船が陸の上に表示されたり、数百メートル離れた位置に飛んだりする誤差が生じていました。2023年に航跡から操業中の細かな動きをAIで解析する取り組みを始めたところ、AIが正しく判断できないケースが頻発しています。
編集部の見立てでは、ここでの困りごとはAIの性能ではなく、入力となる位置データの「解像度」にありました。仕掛けを投げ入れる、待つ、引き上げるといった動作は、船がわずかな範囲で見せる動きの違いとして航跡に表れるはずです。数百メートル単位で揺らぐデータでは、その違いがノイズに埋もれてしまう。AIに何を見分けさせたいかを突き詰めた結果、測位精度そのものがボトルネックとして浮かび上がったと考えられます。
どうやって、うまくいったのか
11種類の操業ラベルを、漁業者本人への聞き取りで付けていった進め方が、この取り組みの土台になっています。航跡を見ながら当事者に「この時間は何をしていたか」を確認するため、データに付く正解の質が高く、AIが学ぶ対象がぶれにくくなります。「集魚」「試し釣り」「不明」まで区分を設けた点も見逃せません。判断のつかない区間を無理にどこかへ押し込まない設計は、学習データの汚れを防ぐうえで理にかなっています。
測位の精度とデータの欠落対策を、機器側で先に固めた判断も効いていると見ています。SLAS対応のGNSSモジュールにRaspberry Pi 4やLTE通信モジュール、各種センサーを組み合わせた機器を自社で設計し、携帯電波の届かない沖合でも位置情報をため込めるようキャッシュ容量を確保しました。市販品のカスタマイズではなく開発環境ごと手元に置いたことで、AIに渡すデータの粒度と連続性を自分たちで管理できる構成になっています。
さらに、アルゴリズムを漁港ごとに構築し、延縄漁・一本釣り・刺し網漁など地域で異なる漁法を個別に扱った点も、短期間で精度を確かめるには現実的な切り分けでした。実証期間の終了後もラベリング作業を続けており、学習データを積み増しながらAIエンジンを磨く循環が回り続けています。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
実証では、学習済みのAIエンジンで航跡データから操業情報を自動作成し、ヒアリングで付けた正解と比較したところ、80〜100%の精度で整合が確認されました。菅取締役は、操業時間と漁獲量を細かい粒度で突き合わせる分析が可能になったと述べています。実証を踏まえてSLAS対応のIoT機器は約200台が製造され、既存機器の置き換えも進んでいます。AIの判定結果については、研究機関の資源評価への活用や、新規就労者へベテランの操業情報として提供することが検討されており、就労者募集イベントで操業情報を見せた際には好評を得ています。今後は漁港を問わず使える汎用アルゴリズムへの移行や、インドネシアなどアジアでの展開も視野に入れています。なお、みちびきの災危通報を受信する実験も並行して行われ、情報が正しく出力できることが確認されました。
うちでも使える?
移動体の位置ログから「その時何をしていたか」を推定したい業務には、応用の余地があります。たとえば配送車両や作業船、巡回点検のように、作業ごとに動き方のパターンが異なり、しかも当事者に後から確認を取れる現場です。正解ラベルを本人の証言で付けられるかどうかが、この手法の成否を分ける条件になります。
反対に、同じ場所に留まったまま複数の作業をこなす業務では、位置の変化に違いが表れにくく、航跡だけでは判別が難しいでしょう。また、この事例は測位誤差の解消が前提になっていたため、屋内や高層ビル街のように衛星測位が不安定な環境では、データの粒度をどう確保するかから考え直す必要があります。現場ごとに作業の仕方が違う場合、漁港単位でアルゴリズムを分けたように、まずは対象を絞って始めるほうが検証しやすいはずです。
手始めに、手元にある車両や端末の位置ログを1日分取り出し、担当者と一緒に「この区間は何の作業だったか」を色分けしてみてはどうでしょうか。区分が迷いなく付けられるなら、AIに学ばせる素地があるといえます。
この事例は2024年5月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:画像・動画・3D
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:AIモデル・構築手法
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
オーシャンソリューションテクノロジー株式会社
長崎県佐世保市を拠点に、漁船の航跡を自動記録し電子操業日誌を作成する漁業者支援サービス「トリトンの矛」を全国の漁業者向けに提供している。
出典・参考情報
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