実施 2025.12 ・ 更新 2026.09.21
商船三井のAI航路最適化、試験運用で燃料6%減 全社データ基盤も構築
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 部門ごとにデータの定義がバラバラ
- 経営の数字を集めるのに時間がかかる
- 燃料コストの削減が担当者の勘頼み
どのようなAIの取り組み?
全社のデータを共通化する基盤づくりと、AIによる気海象予測をもとにした航路の最適化を並行して進め、運航の現場から経営判断までをデータで支えようとしているAI取り組み
業種
外航海運(運輸・物流)
取り組み領域
運航支援/経営管理/全社データ基盤
使ったAI
最適運航支援ツール「Wayfinder」(AI・データモデル分析)、統合データ基盤「MOL PEARL」
主な成果
トライアルで1航海平均約6%の燃料・GHG削減を確認し、約330隻に展開
商船三井は、AIとデータの活用を軸に、運航の現場から経営判断までを見直す取り組みを進めています。社内に散らばっていた会計、営業、運航、環境・安全、マーケットといったデータを集約する全社統合データ基盤「MOL PEARL」を構築し、名寄せやマスタ統合までを基盤側で引き受ける形で、誰が使っても同じ意味になる共通データを整えました。業務面ではBPM(業務プロセス管理)を共通の方法論に据え、チャータリング(用船)業務や運航業務の流れと判断ポイントを可視化して、標準的な手順書としてデジタル化しています。経営管理では、事業別の損益や資産、キャッシュの動きを一つの画面で確認できるダッシュボードを開発。運航面では、米国Sofar Ocean社の最適運航支援ツール「Wayfinder」を使い、海洋観測データと気海象の予測から、安全性と燃費効率を両立する航路やエンジン回転数を算出しています。
出典:AIドリブン変革 | サステナビリティ | 商船三井 発行元:商船三井
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
AIを使う以前の段階で、データは個別システムごとに管理され、定義やコード体系も揃っていませんでした。そのため部門や用途をまたいだ分析には、そのつど調整と手作業が発生していました。経営判断に必要な情報も社内のあちこちに分散し、全体像をつかむまでに時間を要する状態が続きます。運航の現場では、安全を確保しながら燃費効率を高めるために、気海象や船舶性能をふまえて航路や運航条件を判断できる仕組みの整備が課題でした。
編集部の見立てでは、ここでの本質的な困りごとはデータの量や種類の不足ではなく、同じ言葉が部門をまたぐと同じ意味で通じない、という点にあったのではないでしょうか。数字は存在するのに、突き合わせるたびに解釈のすり合わせが要る。この状態のままAIを載せても、出てくる答えの根拠を誰も信用できません。
どうやって、うまくいったのか
データの調達・加工・結合・名寄せを基盤側で完結させるという切り分けが、この取り組みの土台になっています。前処理を利用する側に委ねると、部門ごとに独自の加工ルールが積み上がり、同じ指標が別々の数字で語られる状態へ逆戻りします。共通データの整備を基盤の責務として固定した設計は、分析の再利用性とデータの信頼性を同時に引き上げる狙いを持っていたと読み取れます。扱うデータ領域を一度に広げず段階的に拡張している点も、基盤を作り切ってから使うのではなく、使いながら育てる構えの表れです。
AIより先に業務プロセスを定義し直した順序も見逃せません。BPMを共通の方法論に据え、チャータリング業務や運航業務の流れと判断ポイントを可視化して標準手順としてデジタル化する進め方は、データが自然に溜まる業務の形を先に用意する工夫にあたります。「AI-ready(AIを使える状態)な業務基盤」という言葉が示すのは、自動化できそうな作業を後から探すのではなく、ボトルネックを特定できる設計図を先に持つ考え方です。国内外のIT部門や海外拠点、RPA・AI関連のチームと連携し、設計から自動化、モニタリングまでを一貫して支える体制を敷いたことで、この設計図がグローバルに展開できる共通言語になっています。
外から買う領域と自分たちで作り込む領域を分けた判断も効いています。海洋観測ブイ「Spotter Buoy」による観測網や波高の予測技術のように、蓄積そのものが競争力になる部分は既存のツールに委ね、自社は運航船への展開と現場での使い勝手の確認に集中しました。運航船40隻でのトライアルを挟んでから本格導入へ進む段取りは、船上と陸上の双方が同じ算出結果を使う運用に切り替えるうえで、現場の納得を得る手順として機能しています。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
運航船40隻によるトライアルでは、1航海あたり平均で約6%の燃料消費とGHG排出の削減効果が確認され、参加した船長の80%以上が利便性と気海象予測の精度を高く評価しました。これを受けて本格導入が進み、2025年12月時点では約330隻が利用しています。気海象の予測精度は、衛星データのみを用いる従来手法と比べ、波高を含めて最大50%向上(欧州中期予報センターとの短期的な波予測比較に基づく)。業務プロセスの取り組みは、一般社団法人IIBA日本支部の「ビジネスアナリシス賞2025」で奨励賞を受けています。
うちでも使える?
応用しやすいのは、複数の部門が同じ対象を別々の台帳で管理していて、集計のたびに定義のすり合わせが発生している組織です。データの整理と名寄せを現場ではなく基盤側の仕事として置き換える発想は、規模が小さくても成り立ちます。逆に、この事例をそのままなぞるのが難しいのは、気海象予測のように外部の観測網と予測モデルの精度が成果を左右する領域です。ここは自前で作る対象ではなく、外部のツールを試して自社の条件で効果が出るかを確かめる領域と割り切る必要があります。判断材料が船舶の性能や航行制限といった数値で表せることも、この事例が成立している条件の一つで、担当者の交渉感覚が結果を決める業務では同じ形にはなりません。
小さく始めるなら、社内でよく使う指標を一つ選び、部門ごとにその数字がどう定義され、どのシステムから取られているかを突き合わせてみる。ずれが見つかった時点で、AIより先に手を付けるべき場所がはっきりします。
この事例は2025年12月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
AIツール・サービスの提供形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:数値・Excel・ログ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
商船三井
船舶運航を中核とするMOLグループの企業。経営計画「BLUE ACTION 2035」のもと、業務プロセス標準化とデータ利活用を深化させ、全社統合データ基盤「MOL PEARL」の構築や経営管理の高度化、最適運航支援の強化など、AI・データ活用を軸とした変革を推進している。
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