実施 2022.01 ・ 更新 2026.08.31
強化学習AIが化学プラントの精製工程を35日間連続で自律制御した実証実験
プロジェクト期間:1年 〜 2年
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- ベテランの手作業でしか回せない工程がある
- 自動制御が効かず結局人が介入している
- 品質と省エネの両立で判断に迷う
どのようなAIの取り組み?
強化学習AIに化学プラントの精製工程の制御を任せ、35日間の連続自律制御を検証したAI取り組み
業種
化学(製造業)
取り組み領域
プラントの工程制御(精製・蒸留)
使ったAI
強化学習AI「FKDPP」(自律制御AI)
主な成果
実プラントで35日間(840時間)の連続自律制御に成功
合成樹脂やエラストマーなどを手がけるJSRの国内化学プラントで、産業向け制御・計測機器メーカーの横河電機との共同実証実験が行われました。対象となったのは、沸点の近い二つの物質を加熱して分け、目的の物質を取り出す蒸留塔の一角です。この箇所は従来のPID制御やAPCと呼ばれる自動制御が適応できず、運転員がバルブの操作量を自ら考えて入力する手動制御でしか対応できませんでした。両社は、試行の結果から良い操作の仕方を学ぶ強化学習AI「FKDPP」に、製品の品質と塔内の液面レベルを保ちつつ排熱を熱源として最大限に使うという、互いに干渉する条件の制御を任せます。2022年1月17日から2月21日までの35日間、840時間の連続制御が行われました。経済産業省の令和2年度「産業保安高度化推進事業」に採択された取り組みでもあります。
出典:【横河電機/JSR】世界初 AIによる自律制御で化学プラントを35日間連続制御 | YOKOGAWA 発行元:横河電機株式会社
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
この蒸留塔の一角では、100年前に発表され今もプロセス産業の基盤となっているPID制御も、予測モデルを使って設定値を与えるAPC(高度制御)も適応できず、熟練運転員が自ら操作量を判断し続けるほかありませんでした。降雨や降雪に伴う急激な外気温の変化が制御の状態を乱すため、自動で組んである箇所であっても人が介入して設定値や出力値を変えざるを得ない場面が多く生じています。
困りごとの本質は、自動化できていない箇所が残っていることそのものではなく、その残り方にあったのではないでしょうか。品質を守りながら省エネも狙うといった相互に干渉する目標を同時に満たす判断は、数式のモデルに落とし込みにくく、結果として熟練者の経験の中にしか置き場所がなかった。人が抜けられない工程がひとつでもある限り、プラント全体の自律化はそこで頭打ちになります。
どうやって、うまくいったのか
実機に適用する前に、プラント設計情報から対象プラントのモデルを作り、シミュレータ上でAIに制御モデルを学習させる手順が踏まれています。そのうえで、過去の運転データを与えて安定して動くか、異常時にどう振る舞うかを確かめ、次にリアルタイムの操業データで品質が許容範囲に収まるかを見るという順に、検証の場を机上から現場へ少しずつ寄せていきました。この段取りで見逃せないのは、FKDPPが示す制御方法に熟練の運転員が納得したことを、通過すべき確認項目として明示的に置いた点です。妥当性を数値の一致だけで判断せず、現場が説明を受けて腑に落ちるかどうかを条件に組み込んだ設計が、実機へ踏み出す根拠を作ったと考えられます。
安全の担保をAI側に負わせず、既存の仕組みに残した切り分けも効いています。AI制御システムは統合生産制御システムCENTUM VPに統合され、プラントにもともと備わるインターロック(条件が整わなければ起動できない仕組み)や緊急遮断装置といった安全機能の内側で動く形になり、AIシステムに異常が起きた際の対応と体制も運用面としてあらかじめ整えられました。AIに委ねたのはバルブの操作量を決めることであり、危険を検知して止める役割は従来の機構が持ち続けています。この線引きがあったからこそ、失敗の許されない実プラントで840時間走らせる判断ができたのではないでしょうか。
もう一つの要因は、使う技術の性質と両社の分担を噛み合わせたことです。FKDPPは、参照するセンサや操作するバルブの数が多くても限られた学習回数で頑健な制御方策を学べること、そしてAIの動き方を説明できることが特徴として挙げられており、検証に手間をかける今回の進め方と噛み合っています。役割の面では、解くべき課題の設定、プラント詳細情報と運転状況の提供、安全性・妥当性の評価をJSRが担い、AI制御システムの構築、既存システムとの連携エンジニアリング、保守を横河電機が担いました。現場の事情を最も知る側が「何を解くか」を決め、技術を持つ側が「どう解くか」を引き受ける分け方が、実証の焦点をぶらさずに済んだ理由と見ています。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
2022年1月17日から2月21日までの35日間、840時間にわたる連続制御が達成され、この間に精製された製品は厳しい基準を満たして既に出荷されています。良品のみが生産されることで、規格外品の発生に伴う燃料や人件費の損失と時間的な損失がなくなり、排熱を熱源として最大限に活用する制御によって省エネとCO2削減にもつながりました。運転員は監視だけで済むようになり、24時間365日の手動制御から解放された点は誤操作の防止という意味も持ちます。現場からは、新しい技術に取り組んで成功できたことが今後のDX推進の意欲になったという声も出ています。
うちでも使える?
応用できるかどうかを分けるのは、対象の工程を模擬できるかどうかだと考えられます。今回は設計情報からプラントモデルを作り、シミュレータ上で学習させたAIを実機へ移しました。裏返せば、動きを再現する模型を作れる工程で、かつ過去の運転データが残っていて振る舞いを検証できるなら、同じ進め方を検討する余地があります。一方、判断の入力が計器の数値ではなく現場の目視や手触りに依存している工程や、記録が残っておらず検証に使えるデータが乏しい工程では、この手順はそのままでは成り立ちません。AIが想定外の動きをしても既存の安全機構が止められる構造になっているかも、適用範囲を決める前提になります。
まず確かめたいのは、自社の設備に「自動で組んであるのに、結局人が手動に戻している操作」がどこにあるかという点です。その一箇所について、いま担当者が何を見て何を動かしているのかを、計器名と操作対象のレベルまで具体化してみてはどうでしょうか。
この事例は2022年1月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:文書・ナレッジ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:AIモデル・構築手法
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
横河電機株式会社
産業向け制御・計測機器等の製造、販売、保守サービスなどを手がける。プラントの生産設備の制御・運転監視を行う分散形制御システムを世界に先駆けて開発し、現在は「IA2IA(Industrial Automation to Industrial Autonomy)」を提唱して産業の自律操業に取り組む。
JSR株式会社
出典・参考情報
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