実施 2024.10 ・ 更新 2026.08.13
NECと東北大学病院、電子カルテから治験候補患者を抽出する医療特化LLMの実証
プロジェクト期間:半年未満
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 条件に合う人を探すため大量の記録を読み込んでいる
- 専門職が本業の合間に候補探しをしている
- 文章で書かれた記録が検索しづらく取りこぼしが出る
どのようなAIの取り組み?
医療分野に特化したLLMで電子カルテの記述を整理し、治験条件に適合する候補患者を自動抽出する有効性を検証したAI実証実験
業種
大学病院・臨床試験(医療・ヘルスケア)
取り組み領域
治験の候補患者抽出・リクルーティング
使ったAI
医療分野に特化した独自LLM(大規模言語モデル)
主な成果
約2000名のカルテから約70名を自動抽出し、うち7名が登録可能性ありと確認(実証段階)
日本電気(NEC)と東北大学病院は、新薬開発の遅れにつながる治験患者登録の効率化を狙い、2024年10月から12月までの3ヶ月間、共同で実証実験を行いました。両者が新たに開発したのは、東北大学病院の過去の診療記録をもとにした医療分野特化のLLM(大規模言語モデル)です。電子カルテに書かれた病名や症状、健康状態、治療歴といった情報を、不足分を補いながら整理したうえで、対象となる臨床試験の条件と照合し、候補患者を自動で抽出します。検証の舞台は同院婦人科の子宮体がん患者を対象とした臨床試験で、2017〜18年の2年間、約2000名分のカルテデータが素材となりました。実施にあたっては、企業の研究者が医療現場に入って課題を探索するアカデミック・サイエンス・ユニット(ASU)の枠組みが使われています。
出典:NECと東北大学病院、治験患者登録の効率化に向けてLLM活用の有効性を実証 (2025年3月6日): プレスリリース | NEC 発行元:日本電気株式会社/東北大学病院
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
日本の新薬開発では、海外で承認された薬が国内で使えるまでに時間がかかる、あるいは承認されないというドラッグラグ・ロスが問題になっており、その一因として臨床試験の症例集積期間が長引くことが挙げられています。期間短縮の鍵を握るのが条件に合う患者のリクルーティングですが、ここが詰まりやすく、しかも医療現場に新たな負担を積み増すわけにはいかない、という二重の制約がありました。
編集部の見立てでは、この困りごとの本質は「対象となる患者が院内にいないこと」ではなく、適合の可能性がカルテという自由記述のテキストの中に埋もれ、診療の合間に一件ずつ突き合わせる余力がないことにあったのではないでしょうか。実証の数字が示しているのも、母集団の不足ではなく、探索の網の細かさの差だと読めます。
どうやって、うまくいったのか
照合の前に、カルテの記述を「条件と突き合わせられる状態」へ整える工程を挟んだ設計が、この取り組みの核だと考えられます。病名や症状、健康状態、治療歴は、担当医の書き方や記載時点によって粒度がまちまちになりがちです。そこを不足情報を補完しながら整理し、そのうえで試験条件と照合するという二段構えにしたことで、いきなり条件文とカルテ全文を突き合わせる場合につきまとう見落としや誤判定を減らす狙いが読み取れます。
抽出結果に「電子カルテのどの情報から適合と判断したか」を添えて出力する設計も、実運用を意識した工夫といえます。約2000名から約70名まで絞り込まれた候補は、そのまま登録対象になるわけではなく、最終的には医師が確認する前提のリストです。根拠となる記載が示されていれば、確認は元のカルテを一から読み直す作業ではなく、示された箇所の妥当性を判断する作業に変わります。負担を増やさずに候補を広げる、という当初の制約に応える設計思想がここに表れています。
検証範囲を婦人科の子宮体がんという一つの疾患・診療科に絞り、過去の実績と比較できる形にしたことも、有効性を測るうえで効いたはずです。企業の研究者が医療現場に入って課題を探すASUの枠組みを土台に、同院婦人科の医師の協力を得て進められており、条件の解釈やカルテの読み方といった現場知が開発側に流れ込む体制が組まれていた点は見逃せません。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
2017〜18年の2年間に東北大学病院婦人科を受診した約2000名のカルテデータから、約70名の候補患者が自動で抽出され、その中に対象試験へ登録可能性があった患者7名が含まれていることが確認されました。同じ期間、実際の診療の中でリクルーティングされていたのは4名です。この差は、期間あたりの登録患者数を増やせる可能性を示すもので、あくまで過去データを用いた検証段階の結果にとどまります。NECは2025年度中に実証を重ね、年度内に医療LLMに関連したサービスの提供を目指すとしています。
うちでも使える?
この手法が応用しやすいのは、判断材料が文章として蓄積されていて、かつ「満たすべき条件」が文書で明文化されている絞り込み業務です。募集要件と応募書類の突き合わせ、補助金や制度の適用要件の確認、契約条件と実態の照合など、条件文とテキスト記録を突き合わせる場面は業種を問わず存在します。人が全件を読み切れないために、目についた分だけを処理している業務ほど、候補を広げる効果が出やすいと考えられます。
一方で、そのまま持ち込むのが難しい条件もあります。今回の検証は、同一施設で書かれた過去2年分の記録という比較的そろった素材に対して行われたもので、記載の書式や用語が組織ごと・担当者ごとに大きく揺れる場合は、同じ精度が出るとは限りません。実際、他の疾患や診療科での実証や再現性の検証は今後の課題として残されています。また、抽出結果を人が確認する工程を省けば、確認コストがかえって膨らみます。まずは自社で条件が明文化されている業務をひとつ選び、過去に人手で見つけた件数とAIが挙げた候補数を突き合わせてみる。そこに差が出るかどうかが、検討を進める価値の目安になります。
この事例は2024年10月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:文書・ナレッジ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
日本電気株式会社(NEC)
ヘルスケア・ライフサイエンス事業部門を有し、医療分野に特化したLLMの開発を行う企業。取締役 代表執行役社長 兼CEOは森田隆之。
東北大学病院
出典・参考情報
NECと東北大学病院、治験患者登録の効率化に向けてLLM活用の有効性を実証 (2025年3月6日): プレスリリース | NEC
発行元:日本電気株式会社/東北大学病院
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