実施 2025.10 ・ 更新 2026.08.13
培養条件を探すAIで実験回数を最大73%削減、医薬原料の収量も高めた実証
企業規模:50人以内
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 試作や条件出しの回数が多く開発が長引く
- 調整する項目が多すぎて当たりを絞れない
- 小さく試すと成功、規模を上げると崩れる
どのようなAIの取り組み?
実験条件を最適化するAIと培養シミュレーションを組み合わせ、医薬原料中間体の培養条件を60回の実験で特定した共同実証のAI取り組み
業種
医薬原料中間体の発酵生産(製造業)
取り組み領域
研究開発/微生物の培養条件の最適化
使ったAI
Epistra Accelerate(実験条件最適化AI)、培養シミュレーション技術
主な成果
ラボ実験回数を従来比で最大73%削減し、収量を3.2 g/Lから6.0 g/Lへ向上(ラボスケールでの結果)
抗がん剤などの合成経路で使われる医薬原料中間体「(S)-レチクリン」を、微生物の力で効率よく生産する。この課題に向けて、合成生物学スタートアップのファーメランタ、実験条件最適化AIを手がけるエピストラ、株式会社日立製作所の3社が共同実証に取り組んでいます。前半にあたるラボスケール(数mL〜数L規模の実験室レベル)の実証は2025年10月に完了しました。ファーメランタが開発したスマートセル、つまり多数の遺伝子改変によって特定の機能を高めた細胞を用い、温度やpH、通気量、培地成分など11の変数からなる約4,300兆通りの条件の中から、エピストラの「Epistra Accelerate」が60回の実験で最適条件を特定しています。後半にあたるパイロットスケールでの実証は2025年度中に予定され、そこでは日立の培養シミュレーション技術が使われます。
出典:1127a.pdf 発行元:株式会社日立製作所
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
産業バイオの素材開発は、微生物開発、ラボスケールのプロセス開発、スケールアップ、商用生産という4つの段階を踏みますが、規模を上げた途端に目的物質の生産効率が落ちるという壁が長く残ってきました。培養条件は温度、pH、通気量、培地成分といった多数のパラメータの組み合わせで決まり、今回扱った11変数だけでも約4,300兆通りに達します。
編集部の見立てでは、この困りごとの核心は実験が遅いことそのものではなく、ラボで出した「最適」が大きな槽では最適でなくなるという、定義の食い違いにあります。小さな容器で最も収量が出た条件は、あくまでその容器の物理環境に合わせて磨かれた答えでしかありません。条件探索と規模拡大が別々の工程として切り離されている限り、ラボ段階でどれだけ精密に詰めても、その精度はスケールアップで目減りしてしまうのではないでしょうか。
どうやって、うまくいったのか
スケールアップ後に成り立つ条件を、ラボ段階の探索にあらかじめ織り込んだ点が、この取り組みの設計上の要と考えられます。実験室で最も収量が出る条件を突き止めてから大型の槽へ移すのが通常の流れですが、ここでは大きな槽で成立するかどうかを、条件設定の段階から制約として持ち込んでいます。ラボの最適解を後から作り直すのではなく、最初から移し替えられる形で探す。順序を入れ替えただけに見えて、実際には何をもって最適とするかの基準を書き換える判断です。
11の変数を人が事前に絞り込まず、同時に扱わせた探索の設計も効いています。従来の実験計画法(DoE)は、複数の要因の影響を統計的に調べる手法ですが、変数が増えるほど必要な試行数が跳ね上がるため、現場では経験に基づいて効きそうな変数を先に選び、残りを固定する運用に傾きがちです。温度やpH、通気量といった運転側の7項目と、リン酸・マグネシウム塩といった培地側の4項目を切り分けたうえで同時に動かす設計は、その事前の絞り込みで視野から外れていた組み合わせを探索範囲に残します。
条件探索はAI、槽の中で起きる物理現象は別の技術という役割分担も見逃せません。膨大な条件空間を高速に探るのはAIが担い、培養槽内の流動状態や酸素供給、せん断力の分布といった規模に依存する物理は、シミュレーションで可視化・定量化して運転条件や槽の設計に反映させる。そこにファーメランタによる細胞そのものの作り込みが加わることで、細胞・条件・物理環境という性質の異なる3つの層を、それぞれ得意な手段で扱う構図が成り立っています。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
ラボスケールの実証では、(S)-レチクリンの収量が3.2 g/Lから6.0 g/Lへ向上しました。実験回数は、古典的な実験計画法(Box–Behnken法)で11因子を扱う場合に必要な221回に対し60回で探索を終えており、従来比で最大73%の削減となっています。公開されている学術論文で報告されたラボスケールの収量は4.6〜4.8 g/Lで、以降これを超える報告が確認されていないことから、微生物を用いたバイオプロダクションとして世界最大級の収量と位置づけられています。ただしこれはラボスケールでの結果であり、規模を上げた際の収量低下を抑えられるかは、2025年度中に予定されるパイロットスケールの実証で確かめられる段階です。
うちでも使える?
この考え方が効きやすいのは、結果が数値で測れて、しかも1回の試行に時間や材料費がかさむ条件出しの現場です。塗装や熱処理の条件、配合の比率、装置の運転設定など、担当者が経験で当たりをつけながら少しずつ振っている領域では、変数を絞らずに同時に動かす探索が試行回数の圧縮につながる余地があります。
一方で、応用が難しい条件もはっきりしています。仕上がりの良し悪しを人の目や舌で判断していて数値に落ちていない場合や、同じ条件で回しても結果が大きくばらつく場合、AIは条件と結果の対応関係を手がかりに次の一手を決められず、探索が空回りします。また今回のように規模を変えると最適点が動く領域では、条件探索だけでは足りず、物理現象を説明できる別の手立てを並走させる前提で計画を立てる必要があります。
まず試すなら、次の条件出しの前に、担当者が「経験上ここは動かさない」と固定している設定値を1つ挙げ、その根拠を確かめるところから。固定を外せる変数が1つ見つかれば、そこが探索を任せる入口になります。
この事例は2025年10月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AIツール・サービスの提供形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:数値・Excel・ログ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:AIモデル・構築手法
AIモデル・ツール
プロジェクト実施・導入企業
株式会社日立製作所
IT、OT(制御・運用技術)、プロダクトを活用した社会イノベーション事業(SIB)を展開。デジタルシステム&サービス、エナジー、モビリティ、コネクティブインダストリーズの4セクターに加え、戦略SIBビジネスユニットの事業体制でグローバルに事業を展開し、Lumadaをコアにデータから価値を創出する。2024年度(2025年3月期)売上収益9兆7,833億円、2025年3月末時点で連結子会社618社。
ファーメランタ株式会社
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