実施 2023.07 ・ 更新 2026.08.13
AI需要予測で材料の廃棄額を50分の1に、三菱重工・航空機工場の調達改善
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 材料の廃棄が多く原価を圧迫
- 必要量の見積もりがベテラン頼み
- 在庫管理が紙のままで分析できない
どのようなAIの取り組み?
BigQuery と Vertex AI による需要予測で、航空機の組立に使う材料の月間廃棄額を50分の1まで縮めたAI取り組み
業種
航空機部品製造(製造業)
取り組み領域
生産材料の需要予測・調達計画
使ったAI
Vertex AI(機械学習による需要予測)
主な成果
月間の材料廃棄額を数百万円から10万円以下に削減し、2023年7月に廃棄ゼロを達成
三菱重工業の民間機セグメント江波工場は、ボーイング社向けに大型機のアルミ胴体パネルを組み立てる拠点で、Google Cloud を使ったDX活動を進めてきました。その過程で浮かび上がったのが、組立に使うシールと呼ばれる特殊材料の廃棄です。冷凍で納品されて有効期限が短く、解凍後に使える時間も工場の温度や湿度で変わるため、必要量の見極めが難しく、紙の在庫管理と熟練者の勘に頼った多めの発注が続いていました。工場はまず紙の在庫シートを実績データに変え、生産スケジュールから必要量を割り出す基準量データベースを構築。次に BigQuery へシール使用量のデータを集め、Vertex AI で需要を予測する形へ切り替え、予実管理を通じて精度そのものを高めていきました。廃棄額は段階的に縮小し、2023年7月には廃棄ゼロに到達しています。
出典:三菱重工業株式会社 の導入事例 | Google Cloud 発行元:Google Cloud
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
航空機の組立で使うシールは、冷凍された状態で届き、数週間で期限を迎えます。解凍後に使える時間も工場内の温度や湿度に左右されるため、いつ何本必要になるかを事前に読むのが難しい材料でした。しかも多品種少量生産で日々必要量が動きます。在庫は紙のシートで管理され、手配数量は熟練作業者の感覚に委ねられていました。
ここで注目したいのは、現場が「読めないから多めに頼む」という判断を積み重ねていた点です。シールが尽きれば組立を止めるしかなく、生産の遅れに直結します。一方で余らせた分は廃棄で済みます。欠品の損失と余剰の損失が釣り合っていない以上、多めの発注はむしろ合理的な選択でした。編集部の見立てでは、困りごとの本質は担当者の見積もり技術ではなく、余剰在庫以外にリスクを吸収する手段が存在しなかったという構造にあります。年換算で数千万円の廃棄は、その構造が生んだ保険料だったと言い換えられるのではないでしょうか。
どうやって、うまくいったのか
いきなり機械学習に飛びつかず、紙の在庫管理シートを実績データに変換して基準量データベースを整えた順序が、後の展開を支える土台になりました。シールは10種類、使用場所は260箇所にわたるため、予測すべき単位は2,600通りに及びます。この粒度を先に定義し、生産スケジュールから必要量を算出するSQLベースの仕組みを組んだことで、何を入力し何を当てにいくのかが明確になりました。裏を返せば、AIに学ばせられる形にデータを整形する作業が、実質的な前工程だったことになります。
うまくいった要因として編集部がより重く見ているのは、AIの予測値に人が経験則の係数を掛ける運用をやめた判断です。導入初期は予測を完全には信頼できず、経験に基づく係数で補正していましたが、その補正が外れて廃棄が増えたり、在庫が足りずにシールが枯渇したりする事態が起きました。出力に人が手を加えると、外れた原因がモデル側なのか補正側なのか切り分けられなくなります。予測はそのまま使い、予実管理のデータで予測精度自体を鍛える方針へ切り替えたことが、改善のループを回せる状態をつくったと考えられます。
予測算出にかかる時間が大幅に短くなったことを、コスト削減ではなく検証回数の原資として使った点も見逃せません。空いた時間で入力要素を入れ替えながら試し、現場の作業員に直接話を聞く中で、その日の気温や作業員の熟練度といった、これまで言葉になっていなかった判断材料が浮かび上がりました。暗黙知を形式知に変えるというDX活動のコンセプトが、予測モデルの特徴量という具体的な器を得たかたちです。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
基準量データベースによる予測の段階で、シールの廃棄はひと月あたり75%減の100万円程度まで縮小しました。Vertex AI の予測値による手配に切り替えた最初の月には廃棄額が10万円以下となり、従来の50分の1、基準量データベースと比べても10分の1の水準です。ひと月分の予測算出に40時間かかっていた作業は10分程度に短縮され、試行錯誤を重ねた結果、2023年7月には廃棄量ゼロという目標も達成されました。現在は塗料の使用量予測にも同じ組み合わせで取り組みが進んでいます。
うちでも使える?
この進め方が効きやすいのは、期限のある材料を使い、欠品を恐れて上乗せ発注している業務でしょう。生産スケジュールや作業予定といった先行指標があり、どの工程でどれだけ消費したかを後から突き合わせられるなら、江波工場と同じく実績データを起点に予測へ進む道筋が描けます。予実管理のデータが残る業務ほど、精度を育てる材料に困りません。
一方で、そのまま持ち込むのが難しい条件もあります。この事例は品目と使用場所の組み合わせが限られ、必要量が生産計画と結びついていました。受注そのものが読めない業務や、誰がどこで使ったかを記録できない材料では、同じ形の予測は組み立てにくいはずです。加えて、AIの予測をそのまま使う運用は、外れた月に欠品が出ることを前提にした現場のフォロー体制があってはじめて成立します。予測に人が係数を掛け始めた時点で、改善の手がかりは失われます。
まず試すなら、欠品を避けるために上乗せしている数量が金額にしていくらなのか、扱いの難しい一品目だけ計算してみてはどうでしょうか。その額が見えた瞬間に、予測に投じてよい労力の上限も決まります。
この事例は2023年7月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:帳票・紙の資料
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:AIモデル・構築手法
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
三菱重工業株式会社
産業機械、エネルギー関連機器、自動車、船舶、航空機、宇宙機器など幅広い分野で製品とサービスを提供する三菱グループの重工業メーカー。広島にある民間機セグメント 江波工場は、大型民間航空機における日本最大規模のアルミ胴体パネル組立拠点であり、複雑な後部胴体の製造技術を強みとしてボーイング社向けの航空機部品を生産している。
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