実施 2024.03 ・ 更新 2026.08.13
中外製薬、RAGで手順書検索を実運用 医師役の生成AIで人材育成も
プロジェクト期間:半年〜 1年
企業規模:1,000人以上
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 社内の手順書が多すぎて探せない
- 資料集めだけで1週間かかる
- ベテラン頼みの応対教育を変えたい
どのようなAIの取り組み?
社内の手順書を探すRAGと、医師役を務める生成AIとの対話訓練環境を、医薬品の安全性を担う部門で立ち上げたAI取り組み
業種
医薬品製造(医療・ヘルスケア)
取り組み領域
医薬品の安全性管理/社内文書検索・人材育成
使ったAI
生成AI(Gemini・Med-PaLM)とRAG
主な成果
手順書検索を全社AIアシスタントに組み込み実運用
中外製薬の医薬安全性本部は、医薬品の副作用を評価し、その情報を医療機関と患者に届ける約210名の社内独立組織です。この部門で、RAG(社内文書を検索し、その内容をもとにAIが回答する仕組み)を用いた標準作業手順書(SOP)の検索システムが2024年3月頃から作られ、プロトタイプの検証を経て、同年11月に全社チャット「Chugai AI Assistant」の機能として使える状態になりました。並行して、生成AIが医師役として質問を投げる対話シミュレーター「Chugai AI MediMentor」と、副作用情報をまとめる文書作成(メディカルライティング)を支える環境の開発も進行。後者はGeminiやMed-PaLMを使ったPoC(実証実験)から正式なプロジェクトへ移り、図表を含む文書を扱うためのマルチモーダルRAGは、Google CloudのPSOとの検証を経て、リリースに向けた環境構築の段階にあります。
出典:中外製薬株式会社 の導入事例 | Google Cloud 発行元:Google Cloud
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
医薬安全性本部が扱う手順書は、国内の製造販売後の安全管理業務に関するものだけで40点以上あり、それに紐づく関連文書はさらに数多く存在します。膨大な手順書から必要な情報を取り出し、正しい手順に沿って業務を進めること自体が重い作業になっていました。文書作成の側でも、副作用の分析に必要な資料をそろえるだけで1週間以上かかることが珍しくなく、業務経験の少ないメンバーには手の届きにくい仕事になっていました。
編集部の見立てでは、ここでの困りごとは文書の量そのものより、「いま参照している手順や根拠が正しい」と確信するまでの距離が長かったことにあります。人の命に関わる情報を扱う以上、探し当てた一件で済ませるわけにはいかず、確認の往復が積み上がる。医師からの安全性に関する質問に担当者が答える場面でも、その確信を支えていたのは個人の経験と専門性でした。
どうやって、うまくいったのか
手順書検索を独立したアプリとして作らず、全社員が開くチャット「Chugai AI Assistant」の機能として組み込んだところに、この取り組みの設計思想が表れています。2024年3月頃にRAGでの構築へ着手し、プロトタイプの検証を挟んでから同年11月に機能として提供する、という順序を踏んでいます。新しい入り口を増やせば、使う側は目的ごとに場所を覚え直すことになりますが、すでに日常的に開いている画面へ機能を足す形なら、その負担は生じません。検索の仕組みを作ることと、それを日常の動線に乗せることを切り離さずに考えた進め方。
対話シミュレーターでは、生成AIが答える側ではなく質問する側に回るという役割の反転が効いています。医師のように問いを投げる相手を用意すれば、担当者は空き時間に何度でも面談の場面を再現できます。面談内容・前提条件・達成目標をあらかじめ設定し、音声で質疑応答を重ね、終了後の画面に回答までの所要時間や内容の正確さ、改善点が示される構成は、練習を一回きりの体験で終わらせないための仕掛けでしょう。AIが投げる質問の土台を医薬品の添付文書や適正使用ガイドという公式の情報に置いた点も、汎用の対話練習と一線を画す部分ではないでしょうか。
図表を読み取れないというRAGの弱点を、個々のシステムの不具合ではなく共通基盤の課題として切り出した判断も見逃せません。製薬会社が扱う文書には表やフローチャートが多く含まれ、手順書検索システムも、社内情報を取り込むRAG機能も、同じ壁に突き当たっていました。性質の異なる情報をどう取り込むか、その作業コストをどう下げるかというテーマまで含めて、2024年の春と夏にGoogle CloudのProfessional Services Organization(PSO)と詳細な検証を実施し、現在はリリースに向けた環境構築が進められています。文書作成支援でもPoCで感触を確かめてから正式な検討へ移しており、確度を確かめる工程を省かない運び方が全体に通底しています。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
実運用に届いているのは手順書検索システムで、2024年11月から「Chugai AI Assistant」の機能の一環として利用できるようになりました。このアシスタント自体は2024年5月に正式リリースされ、約7,600人の全従業員が使える環境として、後から機能が加わることで生成AIの入り口としての性格を強めています。一方、対話シミュレーターとメディカルライティング支援環境は、精度と機能をさらに高めたうえで2025年度に現場へ投入される予定であり、安全性情報のデータベースとBigQueryを連携させる仕組みは検証の段階にあります。
うちでも使える?
応用しやすいのは、守るべき手順や根拠が文書としてすでに確定している領域です。手順書、規程、公式に配布される説明資料のように正解の所在がはっきりしている情報であれば、探す時間を縮める効果は業種を問わず見込めます。訓練用途も考え方は同じで、相手役のAIが参照する情報を公式文書に限定できるなら、練習の内容は安定しやすくなります。
反対に、肝心の内容が図や表の中に入っている文書が多い職場では、この事例と同じ壁に先に当たります。中外製薬でもそこが基盤側の課題として持ち越されており、テキストだけを取り込む前提で始めると、期待した答えが返らない理由が分からないまま止まりがちです。判断の根拠が担当者の頭の中にしかなく、参照先となる文書が存在しない業務も、この方式では支えきれません。
最初の一歩としては、社内でよく参照される文書を数点開き、答えが本文の文章側にあるのか、それとも図表の中にあるのかを見比べてみてはいかがでしょうか。ここが分かれば、着手すべき順番もおのずと見えてきます。
この事例は2024年3月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:文書・ナレッジ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
中外製薬株式会社
2025 年に創業 100 周年を迎えた研究開発型の製薬企業。独自の技術・サイエンスを強みとし、医療用医薬品に特化、抗体医薬品で国内シェア No.1(2025 年 3 月時点 中外製薬ホームページ情報より)。2002 年にスイスの大手製薬企業ロシュ社と戦略的アライアンスを開始し、ロシュ・グループの一員として革新性の高い新薬の研究開発に取り組んでいる。
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