実施 2025.04 ・ 更新 2026.08.13
東芝、複数のAIが対話して製造ラインの不良原因を数分で特定する試作システム
プロジェクト期間:半年未満
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 不具合対応がベテラン頼み
- 原因究明に何時間もかかる
- 設備ごとにデータがバラバラ
どのようなAIの取り組み?
Azure OpenAIをベースにした複数のAIエージェントが連携し、電子基板の製造ラインで起きた不良の原因究明と改善提案を数分以内で行えるかを検証したAI取り組み
業種
電子機器製造(製造業)
取り組み領域
製造ライン(電子基板の表面実装)の工程改善・原因分析
使ったAI
Azure OpenAIベースのAIマルチエージェント(複数のAIが分担して動く仕組み)
主な成果
検証で、不良原因の特定と改善提案を数分以内に提示できることを確認
電子基板に部品を直接取り付けていくSMTライン(表面実装の工程)を対象に、東芝グループは2024年10月から工程改善を支援するソフトウェア「Meister Apps 工程改善アシストパッケージ for SMTライン」を提供しています。メーカーの異なる設備からデータを自動で集め、工程管理や品質分析といった目的別に整理して見せる仕組みですが、不良の原因を突き止めて対策を練る部分は人の手に残っていました。そこに、Azure OpenAIを基盤とする複数のAIエージェントを組み合わせ、分析の計画立案・実際の分析・改善提案を分担させる試作システムを、マイクロソフトの技術者とともに3か月で開発。東芝の生産技術センターでの検証では、原因の特定から対処案の提示までを数分以内で行えることが確認されています。
出典:東芝が Azure OpenAI ベースの AI マルチエージェントによる製造ラインのデータ分析を実現し、わずか数分で問題発生時の原因究明と改善提案を行うシステムを実現 | Microsoft Customer Stories 発行元:Microsoft
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
電子基板の少量多品種化が進み、SMTラインでは生産ロットの切り替えに伴う段取り作業が頻繁に発生するようになりました。東芝グループ内のラインでも日々複数回の基板種切り替えが行われ、製品ごとに条件設定や部材交換が変わるため、切り替え後に問題が起きれば、原因の特定から対応策の検討、改善策の立案までを短時間でこなす必要があります。加えて、複数メーカーの設備が混在するラインでは仕様やインターフェイスが異なり、データの一元管理そのものが難しい状態にありました。
編集部の見立てでは、ここでの困りごとの本質は「熟練者の人数が足りない」ことではなく、判断の手順が個人の頭の中にしか存在せず、切り替えの回数が増えるほど、その判断を待つ時間が生産全体の速度を決めてしまう点にあったのではないでしょうか。データを可視化するダッシュボードを整えてもなお改善業務が人手に残り続けた事実は、状態を見せることと、原因を絞り込んで手を打つことが、まったく別の能力であることを示しています。
どうやって、うまくいったのか
現場で使える形に落とすために、操作の入り口をダッシュボード上の1クリックに絞り込んだ設計が効いています。利用者は可視化されたKPI(工程の状態を測る指標)のうち異常が出ている箇所をマウスで指定するだけでよく、キーボードで質問文を組み立てる必要がありません。生成AIの活用でつまずきやすいのは、聞き方を工夫できる人とそうでない人で結果に差が開く点ですが、入力の自由度をあえて捨てることで、その差が生まれる余地を先に消しています。
AIを一つの賢いモデルとして扱わず、計画・分析・改善提案という役割に分けて配置した構成も、実務との相性を高めています。計画エージェントが分析の段取りを立てて分析エージェントに依頼し、原因が分かるまで計画と分析を往復するDeep Research(納得のいく答えに届くまで調査を繰り返す進め方)を経て、改善提案エージェントが対処策をまとめる流れです。このやり取りがチャット形式で表示されるため、利用者は結論だけでなく、そこへ至った道筋をたどれます。製造の現場では対策の根拠が必ず問われる以上、答えの中身と同じくらい「なぜそう言えるのか」を示せる構造が採用の条件になっていた、と読み取れます。
三つ目の柱は、東芝グループが保有する製造ナレッジをAIが扱える形に再構成し、そこからSMTに関する知見を抜き出して実装した点です。一般的な生成AIが一般論に流れやすいのに対して、現場でそのまま実行できる粒度の提案に届くかどうかは、この下ごしらえの精度に左右されます。ユーザー企業が独自に持つナレッジも後から組み込めるよう拡張性を確保した作りは、知見が積み上がるほど提案が育つ前提を用意したという点で示唆的。社内にマルチエージェントの実装事例が乏しかったため、Microsoft Unifiedを通じてマイクロソフトの技術者が開発プロジェクトに加わり、実装方法の選択肢を提示しながら二人三脚で進める体制を取ったことも、短期間で形にできた要因でしょう。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
東芝の生産技術センターでの検証では、従来は状況によって数時間を要することもあった不良原因の特定と改善策の立案について、AIエージェントが数分以内に具体的な対処案を提示できることが確認されています。2025年7月の「製造業DX展」で試作版を展示した際には、回答の速さや、分析結果と改善策が分けて細かく記載される読みやすさに対して好意的な反応が集まりました。エージェント同士のやり取りを読むことが若手技術者にとって熟練者の思考を学ぶ機会になることも期待されており、東芝グループ内のモデル工程でのパイロット活用を検討しながら、2026年の商品化が計画されています。
うちでも使える?
応用が利きやすいのは、対応の手順をある程度たどれる不具合対応です。設備や工程のデータがすでに一箇所に集まっていて、「この指標が崩れたら、まずここを疑う」という絞り込みの型が言葉にできる領域であれば、役割を分けたAIに順を追わせる形は移植しやすいはずです。対策の根拠を示す義務がある業務ほど、思考の過程が画面に残る構造は効いてきます。
一方で、設備ごとに仕様が違ってデータがまだ手元に集まっていない段階では、AIより先に収集と整理の仕組みが必要になります。また、この取り組みの提案精度を支えているのは自社の製造ナレッジを再構成した知見であり、参照できる知見が個人のメモや口伝にとどまっている状態では、同じ手応えは得にくいでしょう。まずは直近に起きた不具合を一件だけ取り上げ、ベテランがどの指標をどの順番で見て原因を絞ったのかを、その場の会話のまま書き起こしてみる。そこから、AIに渡せる形の知見がどれだけ自社にあるかが見えてきます。
この事例は2025年4月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:文書・ナレッジ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:AIモデル・構築手法
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
マイクロソフト
Microsoft Unified の一環として技術者を顧客の開発プロジェクトに参加させるプログラムを提供し、Azure、Azure OpenAI、Microsoft Teams などのクラウドサービス・製品を提供する企業。
株式会社東芝
出典・参考情報
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