実施 2025.09 ・ 更新 2026.08.16
講談社がファンと育てるAIキャラクター、数万回の対話を支えた基盤づくり
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 顧客の反応を自社でつかめない
- AIの応答が狙い通りにならない
- 作ったAIを自分たちで改善したい
どのようなAIの取り組み?
児童文学に登場する人工知能キャラクターをGoogle Cloud上のチャットサービスとして形にし、ファンとの対話を重ねながら育てる体験に仕立てたAI取り組み
業種
出版(メディア・広告・コンテンツ)
取り組み領域
BtoC向けサービス開発/ファン向けチャットサービス
使ったAI
対話AI(チャットボット)/Google Cloud基盤
主な成果
リリース以降、数万回の対話が行われている
講談社のIT戦略企画室 デジタルソリューション部は、データを活かしたBtoC向けサービス開発を模索するなかで、児童文学『怪盗クイーン』シリーズ(講談社青い鳥文庫)に登場する人工知能キャラクター「RD」と会話できる企画を立ち上げました。着想の起点は2023年頃、東北大学言語AI研究センターの研究者との議論です。完成したキャラクターを一方的に届けるのではなく、ファンとの対話を重ねながら一緒に育てていく企画へ組み替えたうえで、Google Cloudを基盤とするシステム構築をG-genに依頼しました。G-genはインフラのコード化とCI/CD環境の整備、同時接続1,000ユーザーを想定した負荷試験、エラー監視の仕組みづくりを担い、サービスは2025年9月にリリースされています。
出典:株式会社講談社様 - 導入事例 - 株式会社G-gen(ジージェン) 発行元:株式会社G-gen
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
出版社は読者との最終接点が書店になるため、顧客のデータを自社で保有していないという課題があります。コミックアプリをはじめとするtoC向けサービスが育つなかで、データを分析やマーケティングにもっと使うべきではないかという問題意識が生まれ、講談社ではその受け皿としてデジタルソリューション部が立ち上がりました。今回の企画も、その流れの延長線上にあります。
ただし開発の実務でつまずいた地点は、データの不足ではありませんでした。プロトタイプの段階で、対話のロジックをいくら改善しても「RDらしい」応答を安定して再現しきれず、しかも「RDらしさ」の解釈はユーザーごとに微妙に食い違う。編集部の見立てでは、困りごとの本質は精度の低さではなく、目指すべき正解そのものが一つに定まらない、評価基準の不在にあったのではないでしょうか。読者が長く親しんできた作品世界を扱うほど、開発側が決めた正解は「これは違う」と受け取られやすくなります。
どうやって、うまくいったのか
完成されたRDを提供するのをやめ、ファンとの対話を通じて一緒に育てる企画へ切り替えた判断が、この取り組みの起点になっています。正解を開発側で決め切れない対象に対し、正解を外から受け取り続ける構造へ設計を組み替えた、と読み取れます。方向を変えたことで「こっちが正解だよね」というフィードバックがファンから寄せられるようになり、キャラクターづくりの材料が流れ込む循環が生まれました。品質の判定者をユーザー側へ開いたことが、行き詰まりを解く鍵になったのだと考えられます。
改善を自分たちで回せる状態を先につくってから運用に入る、という順序も効いています。パートナーとして加わったG-genは、Terraformでクラウドインフラを設定ファイルとして記述できる形に整え、GitHub Actionsで変更を自動的に反映するCI/CD(更新作業を自動で流す仕組み)を用意しました。ここで注目したいのは、講談社側が運用や改善を自分たちで回したいと表明し、G-genがその意図に沿って基盤側を固めるという役割の分かれ方です。育てる企画である以上チューニングの回数は必然的に増えるため、手作業のデプロイを前提とした構成では企画そのものが続かなくなります。
負荷試験を、実際のユーザー行動のシナリオに寄せて組み立てた点も見逃せません。チャットは発話の内容や、そこから分岐する処理によって応答までの時間が変わるため、通常のウェブサイトと同じ測り方では実態をつかみにくい領域です。そこで数ターン会話してから最後にフィードバックを送信して離脱する流れを再現し、同時接続1,000ユーザーを想定して、依存する外部APIの制限を含む複数のボトルネックを洗い出しています。あわせてAPIの監視でエラーを捉えSlackへ通知する経路も組み込まれ、公開後に異常へ気づける導線が用意されました。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
2025年9月のリリース以降、これまでに数万回の対話が行われ、SNSではファンからの好意的な反応が寄せられています。運用面でもリリース後のトラブルはなく、必要なエラーだけがSlackに通知されるため負担は最小限に収まっている、と現場から語られています。一方で理想のRD像にはまだ距離があり、フィードバックの反映やチューニングは続いている段階です。講談社は今回の基盤を他プロジェクトへ横展開する方針で、Google Workspaceと連携した業務効率化や、RAG(外部データを検索してAIの回答に活用する仕組み)による社内システム構築も視野に入れています。
うちでも使える?
この進め方が効くのは、答えが一つに決まらず、利用者の反応を継続的に受け取れる領域です。商品やキャラクターへの思い入れが強い顧客層を抱えている、あるいは「良し悪しの基準が人によって違う」ために社内で仕様を固め切れない、という状況なら、完成品を出す前提を捨てて、育てる過程そのものを体験として設計する余地があります。
反対に、規程の案内や金額の回答のように、一度の応答で正誤が確定する業務には向きません。利用者の判断を正解として取り込む構造そのものが成立しないためです。フィードバックを寄せてくれる熱量のある利用者がいない場合も、循環が回らず、ただの精度不足として残ってしまいます。あわせて、対話の応答時間が内容によって揺れる以上、公開前の負荷検証と、公開後に異常へ気づく通知経路は切り離せません。
まず着手するなら、すでに動いているチャットや問い合わせの記録から、利用者が「そうじゃない」と反応した場面を数件だけ抜き出してみてはどうでしょう。その人が何を正解だと思っていたのかを読み比べると、社内で決めていた正解のどこがずれているのかが見えてきます。
この事例は2025年9月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:顧客対応・サポート
活用したデータ:数値・Excel・ログ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
株式会社G-gen
Google Cloud(旧称GCP)プレミアパートナー。請求代行、システム構築から運用に至るまで、顧客のニーズに合わせたサービスを提供する。Google Cloud 専任プロフェッショナルサービスとして、セキュリティ対策のチェックや技術選定のベストプラクティス確認、ロードマップ提示などの相談に対応する。
株式会社講談社
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