実施 2023.07 ・ 更新 2026.08.15
社内専用の生成AI基盤で日次利用3割が定着、医療機器メーカーの全社展開
プロジェクト期間:2年 〜 3年
企業規模:1,000人以上
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 社員の生成AI利用を禁止したままでいる
- 社外に出せない文書が多く手が出せない
- 全社にツールを配っても使われない
どのようなAIの取り組み?
社内専用の生成AI基盤を全社に広げ、従業員自身が業務用のAIエージェントを作れる環境まで整えたAI取り組み
業種
医療機器・臨床検査機器(製造業)
取り組み領域
全社共通業務/社内向け生成AI基盤
使ったAI
生成AI活用プラットフォーム「Know Narrator」(RAG・AIエージェント)
主な成果
日次利用の定着率30%、業務用AIエージェント24件が稼働
世界190以上の国と地域で事業を展開する臨床検査機器メーカーのシスメックスは、2023年7月、電通総研の生成AI活用プラットフォーム「Know Narrator」を導入し、国内グループ約5,000人の従業員が使える社内専用の生成AI環境を整えました。基盤は同社が契約するMicrosoft Azure上に置かれ、対話機能に加えて、画像やグラフも扱えるマルチモーダルRAG(社内データを検索して回答に反映する仕組み)、利用状況の分析機能、権限管理を含むセキュリティを備えます。展開は段階を踏んでおり、まず社内版の対話環境を全社に開き、続いて設計書や品質関連書類を対象にしたRAGをPoC(小規模な試験導入)で検証しました。2024年3月には、従業員が自分の業務に合わせてAIエージェントを作れる機能を全社に広げています。
出典:「Know Narrator」を基盤に生成AIの社内活用プラットフォームを構築 | 事例 | インサイト | 電通総研 発行元:電通総研
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
生成AIが話題になり始めた頃、産業界の多くが様子見の姿勢を取る中で、シスメックスの情報ソリューション部が向き合っていたのは「禁止か、許容か」という二択でした。医療機器メーカーとして薬事文書や品質関連資料を大量に扱う以上、一般のインターネット環境で生成AIを使えば情報漏洩のリスクが伴います。一方で禁止し続ければ、生産性の面で置いていかれる。
編集部の見立てでは、ここでの本当の困りごとは生成AIの性能や使いこなし方ではなく、業務のデータを持ち込んでよい場所が社内に一つも存在しない、という状態そのものだったのではないでしょうか。安全な置き場所がなければ、現場にどれだけ関心があっても、試すかどうかの判断が個人のリスク感覚に委ねられてしまいます。禁止でも放任でもない第三の場所を先に用意することが、最初に解くべき問いだったと考えられます。
どうやって、うまくいったのか
すでに製品として完成しているものを選び、要件に合わせた開発を待たない、という選定の基準がこの取り組みの起点にあります。複数の候補を比較した際、他社が「要件に合わせてこれから開発します」と提案する中で、Know Narratorは必要な機能を備えた完成品として提示されました。価格面の競争力と導入までのスピードを含めて、ほかに現実的な選択肢はないという判断に至っています。機能の作り込みよりも「安全に使える環境がすでにある」ことを優先した選び方が、着手までの時間をそのまま短縮したと考えられます。
展開を一度に広げず、対話機能とAIエージェント機能で時期を分けた進め方も効いています。2023年7月にまず社内版の対話環境を全社に開き、同年9月からは設計書や品質関連書類を対象にしたRAGをPoCとして検証し、業務で使えるという手応えを確認したうえで2024年3月の全社展開へ進みました。自社の文書でどこまで答えが返るのかを先に確かめる順序が、全社に配ったあとで期待外れが露呈する事態を避けたのではないでしょうか。
作る主体を情報システム部門に集中させず、従業員自身がAIエージェントを開発できる形にした設計も、この事例の特徴です。設計ノウハウをデータベース化して設計者の相談相手にするもの、営業日報と顧客の声(VOC)を学習させて企画・提案のヒントを返すもの、Power Platformと組み合わせて固定資産の科目判定を自動化するものと、生まれた用途は部門ごとにばらばらでした。こうした細かな業務は、外から要件を聞き取って作るより、困っている本人が作るほうが早く形になります。加えて、電通総研のAIトランスフォーメーションセンター(AITC)がRAG向けのデータ加工やプロンプトの調整、活用促進のための相談会といった運用面を継続的に支えており、開発を現場に開く設計は、この伴走とセットで成り立っていると見るべきでしょう。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
取材時点の2025年12月で、Know Narrator ChatやSearchを中心とした社内の生成AIサービスは、デイリーアクティブユーザーで30%の定着率に達しています。従業員が作成したAIエージェントは24件が稼働しており、今年度中にさらに41件の追加が予定されている段階です。PoCを評価した担当者からは、業務で十分に使えるという感触が示されています。配って終わりではなく、使う人と用途が並行して増え続けている点に、この取り組みの現在地が表れています。
うちでも使える?
応用しやすいのは、外部のAIサービスに預けられない文書を抱えつつ、その文書が社内に電子データとしてまとまっている組織です。この事例で最初にRAGの対象となったのも設計書や品質関連書類であり、探しにくいが確かに存在する、という文書群があることが前提になります。逆に、判断の根拠が個人の記憶や口頭のやり取りに留まり、文書として残っていない業務では同じ形は当てはまりません。基盤を用意しても、AIが参照する先がないためです。
もう一点、従業員が自分でAIエージェントを作る形は、作ったあとの質問先や精度改善の相談先が用意されていて初めて回ります。社内にその役割を担える人がいないなら、外部の支援を含めて誰が受け止めるのかを先に決めておきたいところです。まず試すなら、社内で最も「どこに書いてあるか分からない」と言われている文書群を一つ選び、そこに絞ってAIに質問を投げてみる小さな検証から。
この事例は2023年7月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
AIツール・サービスの提供形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:文書・ナレッジ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
株式会社電通総研
生成AI活用プラットフォーム「Know Narrator」を提供。AIの調査・研究、自社ソリューション開発、AIを活用した業務改革を担う専門部隊「AIトランスフォーメーションセンター(AITC)」がAI導入・展開を伴走支援する。
シスメックス株式会社
出典・参考情報
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