実施 2026.03 ・ 更新 2026.08.14
アスクルのAI駆動開発研修、プロンプト術より文脈設計を選んだ判断
プロジェクト期間:半年未満
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- AIツールを使う心理的ハードルが高い
- 研修が操作説明だけで終わってしまう
- AI活用の知識が一部の人に偏っている
どのようなAIの取り組み?
AIに渡す情報の設計という考え方を軸に据えた研修で、エンジニアのAI活用の土台を揃えたAI取り組み
業種
オフィス用品通販(小売・流通・EC)
取り組み領域
ソフトウェア開発/エンジニア研修
使ったAI
GitHub Copilot(AIコーディング支援)
主な成果
参加した12名の知識のベースラインが統一
アスクルは「No AI, No FUTURE」というスローガンを掲げ、2025年5月にAIトランスフォーメーション室を設けて全社でのAI活用を進めています。エンジニア組織では業務効率化とサービスへのAI組み込みという二軸で10以上のプロジェクトが並行し、商品レビューの要約機能もすでに公開されています。その流れの中で実施されたのが、クラスメソッドによるAI駆動開発の研修でした。アスクル側は当初、保守チケットの3割をAIで処理する目標に沿ってプロンプトエンジニアリング中心の内容を求めていましたが、クラスメソッドはより長期的に使えるコンテキストエンジニアリング(AIに与える情報を設計する考え方)へ軸を移すことを提案します。約6〜7時間の丸1日の研修に、社内でAIへの感度が高い12名が参加し、研修後には1カ月の質問対応期間も設けられました。
出典:アスクルがAI駆動開発導入支援で加速するAIトランスフォーム。コンテキストエンジニアリングを軸に置く実践的研修で得られた学びとは|クラスメソッド 発行元:クラスメソッド
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
研修前のアスクルが抱えていたのは、社員間のスキル格差と、AIに触れることへの怖さでした。学び方も短期的なツール操作に偏り、知識を共有する仕組みがないために現場と経営の間に距離が生まれ、体系的に学ぶ機会も足りていません。
ここで目を引くのは、経営トップが自ら標語を考案して旗を振り、全社員の目標にAI活用が組み込まれていたにもかかわらず、現場側にこうした停滞が残っていた点です。編集部の見立てでは、困りごとの本質は熱量やツールの不足ではなく、AIの出力をどこまで信じてよいのかを判断する物差しが組織内で共有されていなかったことにあります。物差しがなければ、経験の浅い人ほど手を止め、詳しい人ほど自己流を深めていきます。スキル格差は原因ではなく、判断基準が言語化されていないことの結果だったのではないでしょうか。
どうやって、うまくいったのか
依頼された内容をそのまま形にせず、研修の軸をプロンプトエンジニアリングからコンテキストエンジニアリングへ置き換えた設計判断が、この取り組みの起点にあります。2〜3回の事前打ち合わせを重ねるなかで、保守チケットの3割をAIで処理したいという当初の要望に対し、2、3年先まで通用する汎用的な概念を先に据える案が示されました。コンテキストの調整が重要になるという議論はまだ出始めたばかりで、講師役のエンジニア自身が実務でその手応えを得ていたことが提案の裏付けになっています。目先の目標に最短距離で応える研修はツールの世代交代とともに価値を失いやすく、手法の寿命を判断軸に置いた点がこの設計の勘所と言えます。
抽象的な概念を、その日のうちに手を動かせる粒度まで落とし込んだ構成も効いています。GitHub Copilotの具体的な操作を学びながら、タスクの分解と実行の分離、インストラクションの分割、コンテキストの適切なサイズ管理、計画を立てさせてから実装させる進め方といった型を扱い、座学に加えてハンズオンとワークショップの時間も確保されました。概念だけを説明すれば現場は動かず、操作だけを教えれば応用が利きません。この二つを往復させる組み立てが、参加者の中で考え方と日々の作業を結び付けたと考えられます。
AIの限界を先に共有した点も見逃せません。大規模言語モデルは予測によって文章を生成しているにすぎないという原理を押さえたうえで、AIが書いたコードを理解しないまま採用してしまう「理解負債」、エラーの有無など表面的な確認で済ませてしまう「目が滑る問題」といった、AI駆動開発に特有のつまずきが名前付きで整理されました。失敗の形に名前が付くと、レビューの場でそれを指摘する言葉が生まれます。研修後に1カ月の質問対応期間を置き、実務で詰まった疑問を後から回収する導線まで含めて組み立てられていた点も、学びを現場に運ぶ設計として理にかなっています。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
研修には社内でAIへの感度が高い12名が参加し、知識のベースラインが揃いました。参加者からは触れる怖さがなくなったという声が多く上がり、AIツールに向かう心理的なハードルが下がっています。学んだ内容はすぐに実務へ反映され、アスクル標準のガイドラインとなるGitHub CopilotのInstructions作成、AIに任せることを前提にした詳細なチケット記述への変更、コンテキストサイズの適切な管理といった動きにつながりました。研修から3カ月が経過した時点でも、コンテキストエンジニアリングという考え方は有効であり続けています。
うちでも使える?
応用しやすいのは、開発チームがすでにAIのコーディング支援ツールに触れていて、学んだことを持ち帰って形にする担い手が社内にいる組織です。アスクルではAI推進の専任組織と開発部門のテックリードがそろって参加し、研修の内容がガイドラインやチケットの書き方という受け皿へ流れ込みました。逆に、受け皿を用意しないまま研修だけを単発で実施すると、概念中心の内容はいい話を聞いたという感想で止まりやすくなります。
判断が分かれるのは、短期の削減目標にコミットしている場合です。今期中の工数削減を数字で示す必要がある局面では、2、3年先を見据えた概念の習得は社内で評価されにくく、説得のコストが高くつきます。まず試すなら、直近で自分がAIに投げた指示をひとつ選び、渡した情報と渡さなかった情報を書き分けてみるところから。うまくいかなかった原因が、ツールの性能なのか渡した文脈の設計なのか、その一手間で見分けがつくようになります。
この事例は2026年3月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:文書・ナレッジ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
AIモデル・ツール
プロジェクト実施・導入企業
クラスメソッド株式会社
AWS総合支援や生成AI総合支援、データ活用、アプリ開発、組織開発・人材育成などを提供する企業。ChatGPTやAmazon Bedrockなど各種生成AIサービスの選定からインフラ構築、アプリ開発まで支援し、2025年にはAI駆動開発支援(研修・PoC・伴走)の提供を開始。実績5,600社以上。
アスクル株式会社
出典・参考情報
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