実施 2025.09 ・ 更新 2026.08.17
パナソニック コネクトのカスハラ相談AI、全文参照方式で正答率1.3倍に
企業規模:1,000人以上
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- ハラスメント被害が表に出てこない
- マニュアルを作っても現場で使われない
- 社内AIの回答がぶれて信用されない
どのようなAIの取り組み?
社内マニュアルの全文をそのままAIに参照させる方式で、カスタマーハラスメント相談の回答精度を高めることに取り組んだ事例
業種
電子機器・B2Bソリューション(製造)
取り組み領域
社内相談窓口/カスタマーハラスメント対応
使ったAI
社内向け生成AIアシスタント(CAG方式)
主な成果
RAG方式と比べてAIの正答率が約1.3倍に向上
パナソニック コネクトは、2025年6月にカスタマーハラスメントへの対応方針を社外へ表明し、翌7月にはグループ共通の対応マニュアルを社内へ公開、法律事務所との顧問契約も結んで相談体制を整えてきました。ところが社内アンケートでは、過去2年間に疑いのある行為を受けた社員の33%が誰にも相談していなかったという結果が出ています。そこで同社は、既存の社内向けAIアシスタント「ConnectAI」の機能を広げる形で、カスハラに関する悩みや疑問に答える特化型AI「With(ウィズ)」を独自に開発し、社内展開を始めました。相談内容を入力すると社内マニュアルに基づいた回答案が返る仕組みで、開発では文書を検索して回答に使うRAGではなく、マニュアルの全文を生成AIに直接読ませるCAGという方式が選ばれています。
出典:パナソニック コネクト、カスタマーハラスメントに対応する特化AI「With」の利用を開始 ~特化AI技術にCAGを採用し正答率1.3倍を実現~ | 技術・研究開発 | 技術・研究開発 | トピックス | Panasonic Newsroom Japan : パナソニック ニュースルーム ジャパン 発行元:パナソニック コネクト株式会社
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
対応方針の社外表明、グループ共通マニュアルの公開、法律事務所との顧問契約。制度の側は先に整っていました。それでも社内アンケートでは、疑いのある行為を受けた社員の33%が誰にも相談していないという結果が出ています。
編集部の見立てでは、ここでの困りごとの正体は窓口の数の不足ではなく、相談に踏み出す手前に置かれた段差です。自分が受けた出来事はカスハラに当たるのか、大げさに騒ぐことにならないか。その判断を、いちばん消耗している当事者自身が背負う構造になっていた。マニュアルが公開されていても、対応の渦中にいる本人が分厚い文書を開いて自分のケースに当てはめる余力を持てるとは限りません。制度を整えるほど、制度に載せるかどうかの判断だけが個人に残ってしまう——潜在化の33%は、その残りかすの数字だったのではないでしょうか。
どうやって、うまくいったのか
参照すべき情報が「対応例を含んだカスハラ対応マニュアル」1点に限られる、という要件の見極めが出発点になっています。社内データを扱うAIでは、必要な箇所を検索してから回答を組み立てるRAG(社内文書などを検索してAIの回答に使う仕組み)が定番ですが、この方式は参照する文書が増えるほど検索が外れやすくなり、回答が揺らぎます。今回採られたCAG(Cache-Augmented Generation)は対象ファイルの全文をそのまま生成AIに読ませる方式で、検索という工程自体を持ちません。定番から外れる選択ではあるものの、読ませる文書が1点で足りるという条件下では、精度が崩れる経路をあらかじめ断つ設計だったと読めます。
相談の受け手をAIに置いた導線も効いていると考えられます。正当な理由のない過度の要求、時間拘束、脅迫、差別的発言といった具体的な行為を入力すれば、マニュアルに沿った回答案が返る。この作りは、これは相談していい案件なのかという線引きを、当事者からAI側へ移す働きを持ちます。相談窓口をもう一つ増やすのではなく、判断の手前にある負荷を下げにいった点が、潜在化という課題の構造に噛み合っています。
新しいツールを立てず、既に社内で使われているAIアシスタント「ConnectAI」の機能拡張として載せた判断も見逃せません。日常的に開く画面の中に相談先が同居していれば、その存在を思い出すための助走がいらない。使ってもらえるかどうかが成否を分ける種類の仕組みでは、置き場所の選定そのものが設計の一部です。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
CAG方式を採用した結果、RAGを用いた場合と比べてAIの正答率が約1.3倍に向上するという定量的な成果が得られています。回答が安定して精度を保てるようになったことで、社員はより確実な対応策を短時間で得られるようになりました。カスタマーハラスメントへの初動対応が強化されるとともに、社員が安心して働ける職場環境づくりにもつながっています。正答率という言葉が示すのは、単なる技術指標ではなく、迷っている人がその回答を信じて動けるかどうかの目安でもあります。
うちでも使える?
この進め方が効きやすいのは、答えの根拠となる文書が数点に限られ、しかも正確さが強く求められる領域です。就業規則や経費の規程、コンプライアンス・法務まわりの一次窓口などは条件が近く、参照元が固定されているぶん全文をそのまま読ませる方式の利点が出やすいと考えられます。
一方で、参照する文書が膨大になったり、部門ごとの資料が次々に足されていったりする状況では、全文を毎回読ませる方式は処理のコストや応答速度に影響が出る可能性があります。データの規模に応じて技術を使い分ける前提は外せません。また、この仕組みが機能した前提には、マニュアルに具体的な対応例が書き込まれていたことがあります。方針や理念しか書かれていない文書をそのまま読ませても、返ってくるのは抽象的な一般論にとどまるはずです。
まず手元のマニュアルを開いて、「こういう場面ではこう返す」という具体例が何件載っているかを数えてみてください。その数が、AI化に耐える文書かどうかの手がかりになります。
この事例は2025年9月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:文書・ナレッジ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
AIモデル・ツール
プロジェクト実施・導入企業
パナソニック コネクト株式会社
2022年4月1日、パナソニックグループの事業会社制への移行に伴い発足した、B2Bソリューションの中核を担う事業会社。グローバルで約29,700名の従業員を擁し、売上高は1兆3,332億円(2024年度)。「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」をパーパスに掲げ、製造業100年の知見とソフトウェアを組み合わせたソリューションや高度に差別化されたハードウェアの提供を通じて、サプライチェーン、公共サービス、生活インフラ、エンターテインメントの顧客の「現場」をイノベートすることに取り組む。
出典・参考情報
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