参照すべき情報が「対応例を含んだカスハラ対応マニュアル」1点に限られる、という要件の見極めが出発点になっています。社内データを扱うAIでは、必要な箇所を検索してから回答を組み立てるRAG(社内文書などを検索してAIの回答に使う仕組み)が定番ですが、この方式は参照する文書が増えるほど検索が外れやすくなり、回答が揺らぎます。今回採られたCAG(Cache-Augmented Generation)は対象ファイルの全文をそのまま生成AIに読ませる方式で、検索という工程自体を持ちません。定番から外れる選択ではあるものの、読ませる文書が1点で足りるという条件下では、精度が崩れる経路をあらかじめ断つ設計だったと読めます。
相談の受け手をAIに置いた導線も効いていると考えられます。正当な理由のない過度の要求、時間拘束、脅迫、差別的発言といった具体的な行為を入力すれば、マニュアルに沿った回答案が返る。この作りは、これは相談していい案件なのかという線引きを、当事者からAI側へ移す働きを持ちます。相談窓口をもう一つ増やすのではなく、判断の手前にある負荷を下げにいった点が、潜在化という課題の構造に噛み合っています。
新しいツールを立てず、既に社内で使われているAIアシスタント「ConnectAI」の機能拡張として載せた判断も見逃せません。日常的に開く画面の中に相談先が同居していれば、その存在を思い出すための助走がいらない。使ってもらえるかどうかが成否を分ける種類の仕組みでは、置き場所の選定そのものが設計の一部です。