実施 2025.12 ・ 更新 2026.08.17
キリンが独自開発した嗜好AI、おいしさの要因を成分単位で定量化する試み
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- ベテランの勘だのみの商品開発
- お客様の感想を数字にできない
- 試作のやり直しで開発が長引く
どのようなAIの取り組み?
顧客調査データと成分分析データをAIで統合し、おいしさに効く成分の特定に取り組んだ嗜好AIの開発事例
業種
ビール・飲料製造業(食品・飲料)
取り組み領域
商品開発・研究開発(香味設計)
使ったAI
嗜好AI「FJWLA」(予測・要因分析AI)
主な成果
試作設計の迅速化を見込み、2026年3月以降の商品から順次導入予定
キリンホールディングスの飲料未来研究所が取り組んだのは、社内に長く蓄積されてきた二種類のデータを結び付けることでした。ひとつは飲んだ人がどう感じたかを集めたお客様調査データ、もうひとつはビールに含まれる成分を測った分析データです。この二つをAIで統合した嗜好AI「FJWLA(フジワラ)」を独自に開発し、基礎データから官能評価(人が実際に味や香りを評価すること)の結果を予測したうえで、どの成分がその評価にどれだけ効いているかを数値として示す仕組みが構築されています。AIがはじき出した成分の手がかりと、醸造家がこれまで培ってきた知見を掛け合わせ、目指す香味に近づけていく進め方が採られました。FJWLAは2026年3月以降に発売されるビール類から順次導入される予定です。
出典:ビールの香味成分を特定する嗜好AI「FJWLA」を独自に開発 | 2025年 | KIRIN - キリンホールディングス株式会社 発行元:キリンホールディングス株式会社
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
ビールの香味をどこから直すべきか。その探索は、醸造家の知見と限定的なデータ分析を組み合わせる形で進められてきました。腕のある人がいて初めて成り立つやり方であり、経験と暗黙知に頼る比重が大きいという課題が残っていました。
ただ、困りごとの本質は人手や技量の不足ではなかったと考えられます。同社にはお客様調査データと成分分析データという厚い蓄積があり、材料そのものは揃っていました。それでも探索が職人技に寄っていたのは、「おいしい」という感想が言葉のまま止まり、「次はどの成分をどちらへ動かすのか」という作業の指示に翻訳されないままだったからではないでしょうか。感想を語るデータと、分析装置が吐き出すデータは、いわば別々の言語で書かれています。両者を突き合わせる翻訳機がないかぎり、間をつなぐ役割は人の記憶と勘に委ねられ続けます。
どうやって、うまくいったのか
要因分解にまで踏み込んだ設計が、この取り組みの核だと編集部は見ています。基礎データから官能評価の結果を当てるだけでも予測モデルとしては成立しますが、それでは「この試作品は評価が高そうだ」までしか分かりません。各成分の寄与度を定量化するところまで仕組みに含めたことで、出力が採点ではなく改善の手がかりに変わりました。改善点を成分レベルで特定できるという性質は、この一段の深さから生まれています。
新しくデータを集めにいくのではなく、すでに手元にある二種類の資産を接続対象に選んだ判断も見逃せません。お客様調査データと成分分析データは、ふだんは別の目的で、別の担当が扱うものです。それらを同じ土俵に載せて対応づけたことが、長年の蓄積を初めて一つの分析素材として使える形にしたと考えられます。
AIの出力を最終回答に据えず、醸造家の知見と掛け合わせる役割分担も、実運用を支える設計でしょう。成分の重要度は理想の香味へ向かうための出発点であり、そこから配合や工程条件をどう組むかは経験の領域に残されています。人が判断する余地を意図的に残した構図が、現場に受け入れられる形をつくっていると読み取れます。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
現時点で示されているのは実績ではなく見通しです。理想の香味に効く重要成分を醸造家が即座に把握できるようになり、試作設計や工程条件の検討が大幅に迅速化される見込みとされています。FJWLAは2026年3月以降に発売されるビール類から順次導入される予定で、その先はRTD(缶チューハイなど、そのまま飲める飲料)やワイン、清涼飲料へと対象領域を広げる方針も示されています。
うちでも使える?
応用しやすいのは、顧客の主観的な評価と、製品を測った客観的な数値が、同じ対象について長期間ためられている領域です。化粧品の使用感や日用品の使い心地、食品の味わいなど、「良し悪しは分かるが理由を言葉にしにくい」分野は構造がよく似ています。
一方で、つまずきやすい条件もはっきりしています。調査の設問が商品ごとにばらばらだったり、アンケートの回答と成分・仕様の測定値が同じ商品・同じロットに結び付けられていなかったりすると、統合の手前で止まります。また、効く成分が分かっても、配合や製造条件を実際に動かせる余地がなければ、分かっただけで終わってしまう点にも注意が要ります。
まずは一つの商品に絞り、過去の顧客アンケートと、その商品の測定値や仕様書が同じ識別番号でたどれるかを確かめてみる。統合できるデータ資産を持っているかどうかは、その照合作業で見当がつきます。
この事例は2025年12月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:数値・Excel・ログ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:AIモデル・構築手法
AIモデル・ツール
プロジェクト実施・導入企業
キリンホールディングス株式会社
社長COOは南方健志。飲料未来研究所(所長 森木博之)を擁し、ビール類をはじめとする飲料の香味開発を行う。「KIRIN Digital Vision 2035」で掲げる生産性向上と価値創造の両軸を推進し、食から医にわたる領域でのCSV先進企業を目指す。
出典・参考情報
ビールの香味成分を特定する嗜好AI「FJWLA」を独自に開発 | 2025年 | KIRIN - キリンホールディングス株式会社
発行元:キリンホールディングス株式会社
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