実施 2025.03 ・ 更新 2026.08.17
医師の画像診断レポートを約80%の精度で構造化、富士フイルムのAI開発
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 専門用語だらけの文書をデータ化できない
- 書き手ごとに書式がバラバラな記録
- 蓄積した文章を分析に使えていない
どのようなAIの取り組み?
独自の自然言語処理技術と約28万語の同義語辞書を組み合わせ、医師が書く画像診断レポートのデータ化に取り組んだAI開発の事例
業種
精密化学・医療機器メーカー(製造)
取り組み領域
画像診断レポートのデータ化・研究開発
使ったAI
読影レポート構造化AI(自然言語処理)
主な成果
複雑な所見文でも約80%の精度で構造化
富士フイルムは、放射線科医がCTやMRIの画像から読み取った所見をまとめる読影レポートを、機械が扱える形へ変換するAIを開発しました。大阪大学大学院医学系研究科との共同研究講座で構築した、10年分以上・約20万件のレポートのデータセットを土台に、自社の画像診断に関する知見と、富士フイルムビジネスイノベーションがドキュメント領域で培ってきた自然言語処理技術を掛け合わせています。処理は、文の種類と対象臓器の判別から、固有用語の抽出、否定や断定を避けた言い回しの解釈、要素同士の関係の整理まで五つの段階に分かれ、最後に約28万語を収録した独自の同義語辞書で表現の揺れを一つの情報へ束ねます。評価では、比較的単純な所見文で90%以上、複雑な所見文でも約80%の精度が確認されました。
出典:医学文書に最適化した独自の自然言語処理技術「読影レポート構造化AI」を開発 | 富士フイルム [日本] 発行元:富士フイルム株式会社
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
放射線科医が作成する読影レポートには、画像から何をどう読み取ったかという高度な判断が凝縮されています。ところが記載は自由文で、医師ごとの言い回しや医学専門用語が入り混じるため、そのまま統計情報の作成やAIの学習データ、プログラム開発に回すことが難しい状態が続いていました。
編集部の見立てでは、ここでの壁は語彙の難しさそのものよりも、書かれた文が「どの臓器の、どの所見が、あるのかないのか」という確定した形に落ちない点にあったのではないでしょうか。「〜を認めません」「〜を否定しきれません」といった表現は、読む医師の側には自然に伝わる一方、機械にとっては有無の判定が反転したり、宙づりのまま残ったりします。データが足りなかったのではなく、10年分の蓄積が一件ずつ違う書き方のまま眠っていたことこそが、課題の核心だったと考えられます。
どうやって、うまくいったのか
注目したいのは、一文の意味をAIに丸ごと理解させるのではなく、構造化を五つの判定へ分割した設計です。文の種類と対象臓器を見分ける、固有の用語を切り出す、所見や病変の有無を判定する、抽出した要素同士の関係を解く。工程ごとに問いを一つへ絞り込めば、それぞれのAIは狭い判断に集中でき、精度が出ない箇所がどの工程にあるのかも追いかけられます。専門性の高い文章ほど一括処理では誤りの原因が見えなくなりやすく、この分解は精度そのもの以上に、改善の手がかりを残す打ち手として効いたはずです。
医師特有の言い回しの解釈を、独立した工程として切り出した判断も見逃せません。「〜を認めません」という記述は、単語だけを拾えば病変の名称が並んでいるように見えますが、意味としては否定であり、「〜を否定しきれません」に至っては断定を避けた保留です。これを用語抽出のついでに処理せず、事実性の判定という専用の役割へ据えたことが、使えるデータへの構造化と、単なる単語の切り出しとを分ける分岐点になったのではないでしょうか。
表現の揺れを一意にまとめる仕組みを、RadLexや万病辞書といった公開されている医学コーパスを参考に、約28万語の独自辞書として組み上げた点も、この取り組みに固有の厚みです。加えて、大学との共同研究講座を通じて実際のレポート約20万件を扱える状態をつくり、画像診断の知見とドキュメント領域の自然言語処理技術という、社内でも別々に積み上がっていた蓄積を持ち寄っています。専門文書のデータ化は、モデルの性能より、その領域の言葉を誰がどう定義するかで結果が決まる作業であり、辞書づくりと現場データの確保に手間をかけた進め方が土台になったと見ています。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
評価の結果、所見文の約7割を占める比較的単純な文章では90%以上の精度で自動的に構造化でき、より複雑な主訴に関する所見文でも約80%の精度に達することが確認されました。難しい部類の記述で8割が形になる水準は、過去の類似所見の検索や統計情報の可視化、RAG(外部のデータを検索して回答に活用する仕組み)を用いた放射線科医向けアシスタントAIの開発といった次の段階を、具体的に見通せる位置に取り組みが進んだことを示しています。将来的には、構造化したデータと医用画像内の所見位置を紐づけ、画像診断支援機能の正解データを自動で大量生成する構想も描かれています。
うちでも使える?
専門用語や独特の言い回しが多く、これまでデータ化を諦めてきた文書を抱える現場には、参考にできる筋道が多い事例です。保守点検の記録、検査報告、契約書の審査メモなど、書式は自由でも実際には「対象」「状態」「有無」という共通の骨格を持つ文書であれば、工程を分けて判定を積み上げるやり方が当てはまりやすいと考えられます。
一方で、そのまま真似るのが難しい条件もはっきりしています。この取り組みは、10年分・約20万件という規模の蓄積と、RadLexなどの公開された医学コーパスという既存の土台があって成立しています。参照できる語彙資産が世の中に存在しない分野や、記録が担当者の手元メモに散らばって残っていない業務では、まず辞書の材料集めから始めることになり、想定より長い助走が必要になるでしょう。
最初の一歩としては、手元の報告書を数十件並べ、「異常なし」「問題は見られない」「判断保留」といった同じ意味の別表現がいくつあるかを突き合わせてみる。その重なりの多さが、辞書づくりの現実的な重さを教えてくれます。
この事例は2025年3月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:文書・ナレッジ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
AIモデル・ツール
プロジェクト実施・導入企業
富士フイルム株式会社
代表取締役社長・CEOは後藤禎一。メディカルシステム事業部を有し、医用画像診断に関する知見をもとにAI技術ブランド「REiLI」のもとで医療AI技術を開発。画像診断支援や術前シミュレーション支援など医療現場のワークフロー支援に取り組む。大阪大学大学院医学系研究科に人工知能画像診断学共同研究講座を2019年4月に開設している。
出典・参考情報
医学文書に最適化した独自の自然言語処理技術「読影レポート構造化AI」を開発 | 富士フイルム [日本]
発行元:富士フイルム株式会社
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