実施 2025.07 ・ 更新 2026.08.17
退院時のまとめ文書を最大60%短縮、富士フイルムが独自開発した医療向け生成AI
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 専門的な書類づくりに時間を取られている
- 過去の記録を探し集めるのが負担
- 残業を減らして働き方を見直したい
どのようなAIの取り組み?
診療情報を構造化する独自の生成AIで、退院時の要約文書の作成時間を平均42%短縮できることを実証検証で確かめたAI取り組み
業種
医療機器・ヘルスケアIT(医療・製造)
取り組み領域
診療文書の作成業務
使ったAI
独自開発の大規模言語モデル(生成AI)
主な成果
退院時の要約文書の作成時間を平均42%短縮(実証検証)
富士フイルムは、公開されている大規模言語モデル(LLM)を土台に自社独自のLLMを開発し、富士フイルムメディカルが提供する診療文書管理・診療業務支援ソリューション「Yahgee(ヤギー)」の新機能として組み込みました。システムに蓄積された診療情報を構造化したうえで、患者の退院時にまとめる要約文書(退院サマリ)の文案を自動で作成する仕組みです。開発では、医療現場のワークフローに関する自社の知見と自然言語処理技術を組み合わせ、複数の医療機関との共同研究で現場の医師からフィードバックを受けながら精度を高めています。画面上では、生成した文案の根拠にあたる診療情報をハイライトして併記し、元のカルテと照合しやすくしました。複数の医師が参加した実証検証では、作成時間が平均42%、最大60%短縮されています。
出典:患者情報文書案を生成AIで自動作成する技術を開発 | 富士フイルム [日本] 発行元:富士フイルム株式会社
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
2024年4月に施行された「医師の働き方改革」により、医療現場では労働時間の短縮が急務となりました。その所定外労働を押し上げていたのが、診療そのものではなく、退院サマリや看護サマリといった文書の作成業務です。これらの文書をまとめるには、電子カルテや検査データの中から必要な情報を拾い集め、整理し直す工程が欠かせませんでした。
編集部の見立てでは、ここでの負担の本質は「文章を書く」手間よりも、必要な情報がシステムの各所に散らばっている状態そのものにあったのではないでしょうか。データはすでに院内に存在しているのに、それを一つの文書として束ね直す作業だけが人手に残されていた。書く前段階の、探して突き合わせる工程が診療の合間や勤務時間の外へ押し出されていた構造こそが、時間短縮を難しくしていた要因と考えられます。
どうやって、うまくいったのか
この取り組みで効いているのは、生成した文案の根拠となる診療情報を画面上でハイライトし、文案と並べて示したUI設計です。AIが作った文章は、確認する側がその正しさを検証できなければ、結局は元データを一から読み直す羽目になります。根拠を指し示す形にしたことで、確認作業が「探す」から「照らし合わせる」へと質を変え、人が最終判断を担う前提を保ったまま作業量だけを圧縮できる構図が生まれました。誤りが許されない領域で、生成精度そのものではなく検証のしやすさに手を入れた点が、この設計の勘所ではないでしょうか。
汎用のAIサービスをそのまま持ち込むのではなく、オープンソースのLLMを土台に独自モデルを開発し、既存の診療文書管理ソリューションの新機能として組み込んだ判断も見逃せません。医師にとっては、日常的に開いている画面の延長線上で文案が出てくるため、新しいツールを覚え直す必要がない。診療情報をいったん構造化してから渡す処理を挟んでいることからも、モデルに丸ごと委ねるのではなく、扱うデータの形を先に整えるという設計思想がうかがえます。
複数の医療機関との共同研究を通じて、現場の医師のフィードバックを開発サイクルに取り込む進め方も、結果を左右した要素でしょう。文書の書きぶりや情報の過不足をどう判断するかは、教科書的な正解ではなく各現場の慣行に依存します。使う人が評価者として開発の途中に加わる体制は、そうした言葉になりにくい基準を仕様へ落とし込む、現実的な手段だったと読めます。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
複数の医師の協力を得た実証検証では、退院サマリの作成に要する時間が平均で42%、最大で60%短縮されることが確認されました。参加した医師からは、生成された文案の妥当性やシステムの使いやすさについて高い評価が寄せられています。年間およそ2万件の退院サマリを扱う規模の病院で使った場合には、年間約2,700時間の作業時間削減が見込まれています。数字の意味は単なる時短にとどまらず、削られた時間がそのまま診療へ戻る点にあります。
うちでも使える?
応用しやすいのは、まとめる材料がすでにシステム内のデータとして残っている業務です。退院サマリの場合、検査結果も治療履歴も電子カルテに記録済みで、人が担っていたのは収集と再構成の部分でした。同じ構図は、案件管理システムに履歴が溜まっている報告書づくりや、点検記録から起こす保守報告などにも当てはまります。
反対に、判断の根拠が担当者の頭の中や手元のメモにしか残っていない業務では、同じ形にはなりません。根拠をハイライトして示す仕組みは、示すべき元データがシステム上にあって初めて成立するためです。出力の正しさを誰がどの基準で確かめるのかが決まっていない場合も、確認工程が新たな負担として積み上がりかねません。まずは自社で定期的に作っている書類を一つ選び、その記載内容がどのシステムのどの画面から引かれているかを追ってみてはどうでしょうか。AIに任せられる範囲と、任せられない範囲の境目が見えてきます。
この事例は2025年7月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:文書・ナレッジ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
富士フイルム株式会社
代表取締役社長・CEOは後藤禎一。メディカルシステム事業部を擁し、画像認識技術を生かしたAI開発を推進、AI技術ブランド「REiLI」のもとで医療分野のAI活用と医療現場のワークフロー支援に取り組む。グループ会社の富士フイルムメディカル株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:川原芳博)が診療文書管理・診療業務支援ソリューション「Yahgee」を提供している。
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