実施 2024.11 ・ 更新 2026.08.17
9つの専門AIが分担回答するRAG、自動車設計のベテラン知識継承と調査時間短縮
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- ベテランの退職で技術が消える
- 社内資料を探すのに時間を取られる
- 質問先が分野ごとにバラバラ
どのようなAIの取り組み?
9つの専門分野に特化したAIエージェントとRAGを組み合わせ、ベテランの設計知識や社内文書を現場から引き出せるようにした自動車開発のAI取り組み
業種
自動車製造(製造業)
取り組み領域
パワートレーン設計/技術情報の検索・知識継承
使ったAI
生成AIエージェントシステム「O-Beya」(RAG+分野別AIエージェント)
主な成果
約800人のエンジニアが利用し、文書を探して読み解く時間が大幅に短縮
自動車メーカーのパワートレーン設計の領域で、ベテランエンジニアの知識継承と開発スピードの向上を同時に狙って構築されたのが、生成AIエージェントシステム「O-Beya」です。Microsoft Azure OpenAI Serviceを土台に、ベクトル検索を備えたCosmos DB、サーバレスで処理を動かすAzure Functions、ハイブリッド検索に対応したAI Searchを組み合わせ、社内の文書を検索してAIの回答に使うRAG(検索拡張生成)の構成をとっています。知識ベースには過去の設計報告書や最新の法規制情報に加え、ベテランが残した手書き文書までが取り込まれました。振動、燃費、排出ガス規制といった分野ごとに9つのAIエージェントが用意され、一つの質問に対して複数のエージェントが専門的な視点から回答を出し、それを統合して示す仕組みです。2024年1月から運用が始まっています。
出典:トヨタ自動車、エンジニアの知見を AI エージェントで継承へ ー 競争力強化に向け革新的な取り組みを開始 - News Center Japan 発行元:Microsoft
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
自動車産業では電動化や自動運転への対応で開発項目が急速に増え、その一方で、エンジンからタイヤまでの動力伝達を担うパワートレーンの設計を支えてきたベテランエンジニアの多くが定年を迎える時期に差しかかっていました。増える仕事と、減る担い手。この二つが同じ時期に重なったことが出発点です。
編集部の見立てでは、ここでの困りごとの本質は「文書が見つからない」という検索の問題ではありません。パワートレーンの設計判断は、振動や燃費、排出ガス規制など複数の専門領域が絡み合って初めて成立します。その組み合わせ方こそがベテランの中に蓄えられていたもので、報告書として文字に残っていても、どの資料をどう突き合わせれば答えになるのかという道筋までは残らない。退職で失われようとしていたのは知識の量ではなく、分野をまたいで判断を束ねる力だったのではないでしょうか。
どうやって、うまくいったのか
一つの汎用チャットに答えさせるのではなく、振動や燃費、排出ガス規制といった分野ごとに9つのAIエージェントを分けて置き、一つの質問に複数の視点から答えさせて統合する設計が、この取り組みの中心にあります。名前の由来となった「大部屋方式」は、各分野の担当者が一つの部屋に集まって議論する進め方ですが、この構成はその場の役割分担をそのままシステムの形に写し取ったものと言えます。専門領域ごとに前提も参照すべき規制も異なる以上、回答者を一人に統合してしまうと、どこかの視点が落ちるか、どの分野にも当たり障りのない答えになる。分けたうえで束ねるという順序が、実務で使える精度を支えていると考えられます。
知識ベースに何を入れるかの判断も、成否を分けた要素です。過去の設計報告書や最新の法規制情報にとどまらず、ベテランエンジニアの手書き文書まで取り込む選択は、扱いにくい資料を最初から対象に含めたことを意味します。検索側もベクトル検索とハイブリッド検索を組み合わせ、言葉の一致だけでなく文脈から関連情報をたどれるようにしてあり、整理されていない元資料を前提にした構えになっています。データを整えてからAIを載せるのではなく、現場に実在する形のまま読ませる方針が、知識継承という目的と噛み合ったのでしょう。
対話履歴とAIの回答に対する専門家の評価をCosmos DBに蓄積し、システムを継続的に育てていく運用体制も見逃せません。専門性の高い問いほど、回答の当否を判定できるのは現場の専門家だけです。その評価を記録として残す仕組みを最初から組み込んだ点に、運用開始を完成ではなく起点として設計する考え方が表れています。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
運用開始以降、エンジンやトランスミッションなどパワートレーン関連の開発に携わる約800人のエンジニアにシステムが開放され、月間で数百回利用されるなど現場への定着が進んでいます。排出ガス測定機器の仕様や環境規制についての質問に正確で詳細な回答が得られ、これまで適切な文書を探し出して膨大な文章を読み解くのに要していた時間が大幅に短縮されたと、実際に使うエンジニアから評価されています。今後は技術図面など視覚的な情報の取り込みや、顧客の不満を分析して次世代車両の改善につなげる「消費者の声エージェント」の開発が構想されています。
うちでも使える?
応用しやすいのは、一つの問いに答えるために複数の専門分野の判断を突き合わせる必要があり、その判断材料が文書として社内に残っている業務です。設計部門に限らず、法務や品質保証、カスタマーサポートのように、担当領域ごとに前提が違う相手へ順番に確認して回っている場面であれば、分野別にAIを分けて答えさせる考え方はそのまま持ち込めます。
反対に、この形が噛み合いにくい条件もはっきりしています。まず、分野の境目が曖昧で「誰に聞くべきか」を切り分けられない業務では、エージェントを分ける利点が出にくくなります。次に、回答の正しさを判定できる専門家が社内におらず評価を蓄積できない場合、精度を上げていく循環が回りません。手書きを含む資料をAIが参照できる形に整える工程にも相応の手間がかかります。
まず試すなら、直近で誰かに聞いて回った質問を一つ選び、その答えを組み立てるのに何分野の知見が必要だったかを数えてみるところから。分野が二つ以上またがっていたなら、この事例の考え方が効く余地があります。
この事例は2024年11月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:文書・ナレッジ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
トヨタ自動車
世界最大の自動車メーカー。昨年度の販売台数は1,000万台を超え、2024年3月期には過去最高となる4兆9,400億円の純利益を達成。「レクサス」をはじめとする高級車も製造し、無駄を最小限にする「トヨタ生産方式」でも知られる。本社は豊田市。
出典・参考情報
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