実施 2023.03 ・ 更新 2026.08.17
牛舎の見回りをAIカメラとロボットで遠隔化、年間3600万円削減の試算
プロジェクト期間:半年〜 1年
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 広い現場の見回りに人手を取られている
- 異常の発見が遅れて損失が出ている
- 電波の届きにくい場所で映像を扱いたい
どのようなAIの取り組み?
施設内に自前で敷く5G通信網とAI画像解析、遠隔操作ロボットを組み合わせ、牛舎の見回りを遠隔から行う体制を検証したAI取り組み
業種
肉用牛の肥育(畜産業)
取り組み領域
牛舎の見回り・個体の健康監視
使ったAI
AI画像解析による監視カメラソリューション「Dr.Cowsビュー」
主な成果
年間約3,600万円のコスト削減効果を試算(実証段階)
鹿児島県の肉用牛肥育農場「うしの中山 大隅ファーム」で、西日本電信電話や富士通などが参加するコンソーシアムが、牛舎の見回りを遠隔化するための実証実験を行いました。半屋外という牛舎の構造に合わせ、指向性アンテナと漏洩同軸ケーブル(LCX)を組み合わせたローカル5G(施設内に自前で敷設する5G通信網)を構築し、外部への電波漏れを抑えながら大容量の通信を確保しています。その基盤の上に各牛房へ計1,008台の4Kカメラを設置してAI画像解析サーバーと接続し、監視カメラソリューション「Dr.Cowsビュー」が牛の活動量や体調レベル、転倒などの異常を検知して事務所へリアルタイムに通知します。通知を受けたスタッフは遠隔操作の見回りロボットを現場へ向かわせ、搭載カメラの映像で個体の状態を確かめる、という流れです。
出典:000962921.pdf 発行元:総務省
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
肉用牛の肥育では飼料費など生産コストの増大が経営を圧迫する一方、牛の状態を把握する手段はスタッフが牛舎を歩いて確認する方法に依存していました。起立困難のような異常を見落とせば、死亡や緊急出荷という形で損失が直接返ってきます。
ここで効いていたのは、単純な人手不足というより、見回りという行為が抱える時間の粗さだったのではないでしょうか。人が歩いて確かめる以上、監視の間隔は移動にかかる時間に縛られ、前の見回りから次までの空白に起きた異変は、誰かが通りかかるまで気づかれません。広大な牛舎を少人数で24時間見続けることが現実的でない以上、人を増やして埋められる隙間には限りがあり、確認の密度そのものを人の足から切り離す必要があった、と編集部は見ています。
どうやって、うまくいったのか
牛舎の物理条件に合わせて通信インフラから設計し直したことが、この取り組み全体の土台になっています。半屋外の建屋は電波が外へ漏れやすく、そのまま電波を飛ばせば隣接する他者の土地にまで及んでしまう。指向性アンテナと漏洩同軸ケーブル(LCX)という、届けたい範囲に沿って線状に電波を送る部材を組み合わせた構成は、漏洩を抑えることと、1,008台分の4K映像を運べる帯域を確保することを同時に成り立たせるための解と読めます。AI活用の議論はカメラの台数やモデルの精度に集まりがちですが、映像が途切れる環境では検知の良し悪し以前に仕組みが動かないため、ここを先に固めた順序に意味があります。
検知と確認を役割で分けた二段構えの設計も、実運用を可能にした要素です。AI画像解析が担うのは活動量や体調レベル、転倒といった常時のふるい分けで、最終的に牛の状態を判断するのは、アラートを受けて映像を見るスタッフ。AIにすべての判断を委ねず、疑わしい個体を人の目の前まで運ぶ役割に限定したことで、誤検知が即座に致命傷にはならない構造になっています。
異常が知らされた後に遠隔操作のロボットを向かわせる組み立ては、確認の質を落とさずに移動だけを取り除く選択でした。固定カメラは牛房を俯瞰できても、気になる個体へ寄って角度を変えることまではできません。ロボット搭載のフルHDカメラで近づいて見る手段を残したからこそ、現場へ足を運ぶ理由を減らしながら、詳しく見たい場面には応えられます。起立困難牛の検知率100%という目標を掲げてAIの精度を上げ続ける方針も、一度きりの試験で終わらせず、運用しながら検知を育てる前提に立ったものです。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
実証では、事務所から最大64台のカメラ映像を同時に閲覧できる環境が整い、熟練スタッフが遠隔からでも牛の健康状態を正確に把握できることが確かめられました。見回りロボットの遠隔操作も遅延なく行え、現場へ駆けつける手間は大幅に減っています。コスト面は試算の段階で、見回り業務の軽減により年間約2,400万円、異常の早期発見による死亡牛や緊急出荷の回避で年間約1,200万円、合計で年間約3,600万円の削減効果が見込まれています。今後は検知精度のさらなる向上と、他の大規模農場への横展開が視野に入っています。
うちでも使える?
この組み立てが効くのは、見逃し1件あたりの損失が金額で見積もれて、なおかつ確認のために人が長い距離を移動している現場です。広い工場やプラント、建設現場のように、異常の兆候が映像に現れ、かつ発見の遅れがそのまま損害になる領域であれば、検知と確認を分ける考え方はそのまま応用できます。
一方で、この事例は自前の5G網の敷設と1,000台規模のカメラという相応の初期投資を前提にしています。監視対象が少なく、徒歩数分で一巡できる範囲であれば、移動時間を削っても投資の回収までは届きにくいでしょう。触ってみて分かる異変や、においや音でしか判断できない状態が管理の中心を占める現場も、カメラ主体の検知だけでは補いきれません。まずは手元のカメラ映像を1台分だけ、人が現場にいなかった時間帯にさかのぼって見返してみる。そこに気づかないまま過ぎた出来事が映っているかどうかが、遠隔監視を検討する最初の判断材料になります。
この事例は2023年3月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:画像・動画・3D
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:画像AI
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
西日本電信電話株式会社
令和4年度「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」において、鹿児島 肉用牛産地(肥育・繁殖)形成 スマート農業による低コスト和牛生産 実証コンソーシアムの代表機関を務める通信事業者。ローカル5G環境の構築とAI画像解析・見回りロボットによる牛監視システムの実証を主導し、R5年度以降は実装・横展開に向けた畜産農家への提案を中心となって推進する。西日本エリア30府県に営業拠点を持つ。
うしの中山(大隅ファーム)
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