実施 2021.01 ・ 更新 2026.08.17
大腸内視鏡AIが見逃しを減らす、経験の浅い医師の検出率6%向上
プロジェクト期間:3年以上
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 目視の確認で見落としが出る
- ベテランと若手で精度に差が出る
- 小さな異常をその場で見つけたい
どのようなAIの取り組み?
大腸内視鏡の映像をその場で解析するAIにより、経験の浅い医師の表面型病変の検出率が6%向上したAI取り組み
業種
がん専門の医療・研究機関(医療)
取り組み領域
大腸内視鏡検査/病変の発見
使ったAI
内視鏡画像解析AI(深層学習の画像認識)
主な成果
経験の浅い医師の表面型病変の検出率が6%向上
国立がん研究センターと日本電気株式会社(NEC)は、大腸内視鏡の映像を解析する医療機器ソフトウェア「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」を共同で開発しました。学習に使われたのは、早期の大腸がんと前がん病変をあわせて1万病変以上、静止画と動画で25万枚におよぶ内視鏡画像です。この画像には国立がん研究センター中央病院の専門スタッフが一枚ずつ所見を書き加え、その情報ごとAIに学習させています。とりわけ、平らに広がる表面型や、くぼんだ形の陥凹型といった見つけにくい腫瘍を重点的に学ばせた点が特徴です。検査中、AIは内視鏡に映る画像全体をリアルタイムで解析し、病変を捉えると通知音と円マークで医師に知らせます。主要な内視鏡メーカー3社の機器に接続でき、既存の設備に端末とモニターをつなぐだけで使い始められる構成です。
出典:国立がん研究センターと日本電気株式会社が共同開発した内視鏡AI診断支援医療機器ソフトウェア「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」医療機器承認|国立がん研究センター 発行元:国立がん研究センター
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
大腸がんは罹患者数も死亡数も増える傾向にあり、その予防は、がんになる前の腫瘍性ポリープをいかに早く見つけて取り除けるかにかかっています。ところが実際の内視鏡検査では、肉眼では捉えにくい病変、腸のかたちによって生じる死角、さらに医師ごとの技術差が重なり、約24%の病変が見逃されていました。
編集部の見立てでは、この困りごとの本質は注意力や集中力の不足ではありません。見逃されていた病変の多くは「見えていたのに気づかなかった」ものというより、「気づけるかどうかが担当医の経験の厚みに左右される」対象だったのではないでしょうか。だとすれば、確認の手順を増やしても、ダブルチェックの回数を積み上げても、差は思うように縮まりません。埋めるべきだったのは手間ではなく、経験そのものの差だった、と読めます。
どうやって、うまくいったのか
効いたのは学習データの量そのものよりも、その一枚ずつに専門医の判断を書き込んでいった作り方だと考えられます。1万病変以上・25万枚という規模の内視鏡画像に対し、国立がん研究センター中央病院の専門スタッフが所見を付与しています。画像を撮るだけならどの施設でもできますが、そこに「どこが病変で、何と見るか」という専門家の読みが重なった瞬間、データは映像から判断の教材へ変わります。経験の差を埋めることが狙いなら、埋める材料もまた経験でなければならない——教師データの作り方が、そのまま目的に直結していました。
見つけにくい表面型や陥凹型の腫瘍に学習を寄せた配分も、性能を現場の課題に噛み合わせる工夫です。隆起して目立つ病変は、もともと人が捉えられる領域にあります。そこの精度をさらに上げても検査全体の見逃しはあまり減りませんが、人が苦手とする平坦・くぼみの領域に学習を集中させれば、同じ性能でも減らせる見逃しの幅は大きくなります。AIを万遍なく賢くするのではなく、人の弱点と重なる場所に力を配るという判断です。
現場への出し方も、検査の流れを妨げない範囲に絞り込まれています。AIが伝えるのは通知音と円マークだけで、医師に手順の組み替えを求めません。接続の面でも、主要メーカー3社の内視鏡に端末とモニターをつなぐ形をとり、機器の入れ替えを前提にしない構成になっています。判断の主役は医師のまま、気づきのきっかけだけを足す割り切りが、日常の検査に混ぜ込める形をつくったと見ています。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
性能検証試験では、AIが病変の約83%を正しく検出しました。目で捉えやすい隆起型では約95%、見つけにくい表面型でも約78%に達し、経験豊富な内視鏡医と同等の診断性能が確認されています。経験の浅い医師がこのシステムを使った場合には、表面型病変の検出率が6%向上しました。誤検出が少ないことから、検査時間を延ばさずに診断精度を高められると期待されています。本システムは日本および欧州で医療機器として正式に承認されました。
うちでも使える?
応用しやすいのは、判断の対象が画像や映像として残り、かつ「これが正解」と言い切れる専門家が社内にいる業務です。製造ラインの外観検査や設備の点検のように、見落としが後工程で高くつく作業とは相性がよいでしょう。反対に難しいのは、正解を付けられる人が一人か二人に限られ、その人の時間を大量に確保できない場合です。この事例では専門スタッフが25万枚に所見を付けており、教師データづくり自体が相当な工数を伴う工程だった点は見落とせません。見逃しの定義が人によって割れる業務も同様で、学ばせる正解が定まらなければ、AIの出力もぶれます。
はじめの一歩としては、自社で起きた見落としを数種類に分け、どの型が繰り返し出ているのかを見てみること。あわせて、AIが「ここが怪しい」と示したときに担当者がその場で何をするのか——手を止めるのか、記録に残すのか、上長を呼ぶのか——を先に決めておくと、検討が机上の話で終わりにくくなります。
この事例は2021年1月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:画像・動画・3D
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:画像AI
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
国立研究開発法人国立がん研究センター
国立研究開発法人(理事長:中釜斉、所在地:東京都中央区)。築地キャンパスと柏キャンパスを持ち、中央病院(病院長:島田和明)と研究所(研究所長:間野博行)の連携により、がん診療および「人工知能を用いた統合的ながん医療システムの開発」などのトランスレーショナル・リサーチを実施している。
出典・参考情報
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