検出の対象を疎性結合組織という一点に絞った設計が、まず効いていると考えられます。手術映像から異常や危険をひろく拾おうとすれば、何を出すべきかの線引きが曖昧になり、表示が増えるほど術者の判断を邪魔します。これに対し、切除ラインを決めるという明確な用途に直結する構造物だけを検出対象に据えたことで、AIが答えるべき問いが一つに定まりました。剥離層を正確に認識して提示するという役割の狭さは、能力の限界ではなく、実用性を成立させるための絞り込みと読めます。
表示先をメインモニターから切り離した点も、見落とせない工夫です。術者が手技の間ずっと注視している映像に色を重ねれば、AIの判断が視野そのものを塗り替えてしまいます。サブモニターに水色の強調表示を置く構成なら、術者は必要なときだけ参照でき、最終的な判断の主導権は人の側に残ります。支援であって代替ではないという線引きを、UIの物理的な配置で担保した形です。
既存の内視鏡システムや手術支援ロボットの映像信号を受け取る方式をとったことも、現場に持ち込みやすさをもたらしています。専用の撮影機器を新たに置くのではなく、すでに稼働している機器の出力に後から接続する構造であり、映像のタイムラグを感じさせない応答性は、この構成を実用の水準で成り立たせる前提条件でした。