実施 2023.07 ・ 更新 2026.08.17
JALエンジニアリング、航空機の故障予兆をAIが自ら見つけ出す分析手法
プロジェクト期間:3年以上
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 設備の故障を事前に防ぎたい
- センサーデータが多すぎて手つかず
- ベテランの勘頼みの点検から抜けたい
どのようなAIの取り組み?
航空機のセンサーデータから不具合の予兆を示す特徴量をAIが自ら探し出す分析フローを築いた事例
業種
航空機整備(運輸・航空)
取り組み領域
整備・故障予測(予兆検知)
使ったAI
dotData(特徴量を自動設計するAI)
主な成果
不具合の予兆を示す新たな特徴量の抽出に成功
航空機整備を担うJALエンジニアリングは、2016年から航空機のセンサーデータと過去の整備データを統合し、整備士の経験をもとに仮説を立てて検証する分析に取り組んできました。ただ、電気系統のように不具合へ至る筋道を想定しにくい事象では予兆をつかめず、データ側から手がかりを探す方式への転換を図ります。ここで日本電気(NEC)が、特徴量を自動設計するAI「dotData」を用いた受託開発と分析支援を担当しました。1機あたり数千種類、0.2秒間隔で生成されるものも含むデータをすべて学習させるのは現実的でないため、不具合が起きたフライトとその直前を異常データとして切り出し、一部の正常データと合わせて投入する方法を編み出しています。AIが挙げた特徴量から、技術的に意味のあるものを人が選び、従来の検証手法につなぐ流れも整えました。
出典:故障予測分析をAIでさらに高度化 空の安全を守るJALエンジニアリングの取り組みとは 発行元:日本電気株式会社
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
航空機の不具合は事故やフライトの遅延・欠航へ直結するため、この現場では不具合が起きてから直すのではなく、事前に部品を交換する故障予測が長く追求されてきました。すでに多くの予測モデルが積み上がっていた一方、電気系統のトラブルのように、機械部品と違って不具合に至るシナリオを描きにくい事象では予兆を捉えられずにいます。
編集部の見立てでは、ここでの壁はデータや解析精度ではなく、分析の入口の設計にありました。仮説を立てて検証する方式は、人が想像できた筋道の中でしか答えを探せません。つまり「まだ誰も思いついていない予兆」は、どれだけ真面目に検証を重ねても構造的に視野へ入ってこない。経験の量ではなく、経験の外側に届かないことが本質的な困りごとだったのではないでしょうか。
どうやって、うまくいったのか
データ量の問題を「どう全部処理するか」ではなく「何を学ばせるか」という選択の問題に置き換えた点が、この取り組みの起点になっています。数千種類のセンサーが0.2秒間隔で吐き出す記録を丸ごと投入するのは非現実的ですが、不具合が発生したフライトとその直前を異常データと定義し、一部の正常データと組み合わせてサンプリングすれば、正常と異常を分ける手がかりだけを浮かび上がらせられます。この切り出し方は、AI側の性能に頼るのではなく、学習させる材料の輪郭を人が設計するという判断であり、NECと整備側が議論を重ねて練り上げられました。
AIの出力をそのまま答えにせず、人が選別する工程を挟んだ設計も効いています。特徴量を自動で設計する技術は、統計的には差が出るものの技術的な意味づけが難しい指標もまとめて挙げてきます。そこからエンジニアリング的に説明のつくものだけを人が拾い、従来の検証手法に接続するハイブリッドな流れを置いたことで、探索の広さと現場で使える確からしさが両立しました。
外部のAIを単発の納品物として受け取らず、分析フローそのものを共同で組み立て、伴走する形をとったことも見逃せません。特徴量の意味を判断できるのは航空機の構造を知る側であり、探索の設計を担うのはAI側です。役割を切り分けたまま並走させる体制が、手法を一度きりの実験に終わらせずに定着させる条件になったと考えられます。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
2019年からの試験的な運用を経て、不具合の予兆を明確に示す有効な特徴量の抽出に至りました。ボーイング787のエアコンシステム部品では新たな特徴量が見つかり、この取り組みは航空技術協会の表彰審査会委員長特別賞を受賞しています。加えて、整備士の知見では稼働中に兆候が現れると考えられていた事象について、システム停止中に特定の傾向を示す特徴量が存在するという新しい事実も判明しました。現在は部品整備部門との共同分析も進み、データ分析に携わる担当者の裾野が広がりつつあります。
うちでも使える?
応用の可否を分けるのは、業務そのものの高度さよりも、データの持ち方だと考えられます。設備や機械が稼働記録を残していて、なおかつ「このとき不具合が起きた」という時点が過去の記録と結び付けられるなら、異常の直前を切り出して正常時と比べる考え方はそのまま持ち込めます。製造ラインの予知保全や、インフラ設備の異常検知のように、常時データが積み上がる領域とは相性が良いはずです。
一方で、不具合の発生記録が紙や個人のメモにとどまっていて、いつ・どの機器で起きたかをデータ側と突き合わせられない場合は、この手法の入口に立てません。また、AIが挙げた指標を技術的に妥当かどうか判断できる人が社内にいないと、意味のない相関を拾ったまま現場へ流してしまう危険もあります。
まず試すなら、直近で起きた設備トラブルを一つ選び、その発生時刻の前後で何のデータが残っているかを確かめるところから。残っていないと分かること自体が、次に何を測り始めるべきかの答えになります。
この事例は2023年7月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AIツール・サービスの提供形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:数値・Excel・ログ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:AIモデル・構築手法
AIモデル・ツール
プロジェクト実施・導入企業
株式会社JALエンジニアリング
JALグループが運航する航空機の機体や部品の整備を一手に担う企業。JALグループの機材以外にも、国内外の航空会社の機材を国内の空港で整備するサービスを手掛け、航空機整備に関して国内トップクラスの実績を持つ。2016年開始の「故障予測プロジェクト」でフライトデータや整備データのビッグデータ分析による不具合の予兆検知に取り組んでいる。
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