実施 2025.01 ・ 更新 2026.08.17
JAL、通信のない機内で動く小型AIで報告書作成を効率化する実証実験
プロジェクト期間:半年未満
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- ネットが届かない場所でAIが使えない
- 現場の報告書作成に時間を取られている
- 社外にデータを出せずAI活用が進まない
どのようなAIの取り組み?
通信が制限される機内でも端末の中だけで動く小規模な言語モデルを使い、客室乗務員の引き継ぎレポート作成を支援する試作アプリを検証したAI取り組み
業種
航空旅客輸送(運輸)
取り組み領域
客室乗務員の引き継ぎレポート作成
使ったAI
小規模言語モデル「Phi」(オフラインで動く生成AI)
主な成果
実証実験で、既存アプリ比のレポート作成時間と修正発生率を大幅に削減
日本航空株式会社(JAL)では、客室乗務員が空港の地上スタッフへ業務を引き継ぐためのレポートを機内で作成しています。ただ、フライト中の機内はクラウド環境へのネットワーク接続が制限され、大規模言語モデル(LLM)を外部から呼び出す前提の仕組みは使えません。そこで富士通とヘッドウォータースが、マイクロソフトの小規模な言語モデル「Phi」を用い、通信のないタブレット端末上でチャットのやり取りからレポートを組み立てる試作アプリを開発し、実証実験を行いました。富士通は過去のレポートを教材にモデルを業務向けへ調整し、ヘッドウォータースは端末上で無理なく動かすためのデータ圧縮による最適化と、業務分析から評価までの伴走支援を担っています。
出典:富士通とヘッドウォータース、日本航空客室乗務員のレポート作成業務効率化に向け業務特化型オンデバイス生成AIソリューションの実証実験を実施 - 株式会社ヘッドウォータース 発行元:株式会社ヘッドウォータース
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
客室乗務員が担う引き継ぎ用のレポートは、フライトの最中に書き上げる必要があります。その負担を軽くしたいという要望自体はどの業種にもありますが、この事例で壁になったのは、機内がクラウドにつながらないという環境条件でした。生成AIの助けがほしい場面はまさに飛行中であり、一般的なLLMはそこに手が届きません。
困りごとの本質は、レポートを書くという作業量そのものよりも、業務が発生する場所とAIが使える場所がずれていた点にあると編集部は見ています。地上に降りてから支援を受けられても、引き継ぎには間に合いません。効率化の余地があると分かっていながら、道具を持ち込めない場所だからこそ手つかずで残っていた、という構図ではないでしょうか。
どうやって、うまくいったのか
出発点にあるのは、クラウド上のLLMを使うという前提そのものを外した判断です。採用されたのはマイクロソフトの小規模な言語モデル「Phi」で、モデルの規模よりも、通信のない端末の中だけで完結して動くことが優先されています。汎用的な賢さを求めるほどクラウド側へ寄っていく構造の中で、必要な性能の線をどこに引くかを先に決めた設計と言えます。
小さなモデルの守備範囲の狭さは、用途を絞り込むことで埋められています。過去のレポートデータを教材にPhiへ追加学習を施し、客室乗務員の業務で使われる言い回しに合わせたことで、出力される文章が現場の表現に近づき、手直しの起点として扱いやすくなりました。扱う文書が引き継ぎレポートという決まった型に限られていたことが、この特化を成立させた条件だと考えられます。白紙から書き始めるのではなくチャットのやり取りを通じて文章を組み立てる入力形式も、作文という作業を分解して負担を散らす工夫でしょう。
机上の検証にとどめず、実機のタブレットで動くところまで作り込んだ点も見逃せません。データを圧縮して処理を軽くする技術で端末上の動作を最適化し、追加学習の環境構築はAIエンジニアが、業務の流れの分析から実証の実施・評価、柔軟な開発の進行管理まではAIコンサルタントが伴走する形で役割が分けられています。モデルの調整と業務理解と端末最適化のどれが欠けても成り立たない取り組みであり、二社が異なる専門性を持ち寄る体制がそれを支えたのだと読めます。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
実証実験では、チャット入力から自動生成されたレポートが業務用語を踏まえた自然な文章になり、そのまま編集しやすい状態で出力されることが確認されています。英訳もスムーズに行えたことで負担が軽くなり、既存のアプリと比べてレポート作成にかかる作業時間と修正の発生率がいずれも大幅に削減されました。今後は本番運用に向けた段階的な検証を進め、JALが運用する生成AIプラットフォームへの導入や、端末側で動くオンデバイス型・エッジ型での提供が目指されています。
うちでも使える?
応用が利きやすいのは、書く文書の型が決まっていて、過去の蓄積が社内に残っている業務です。この事例で追加学習の教材になったのは過去のレポートであり、様式がばらばらな文書しか残っていない職場では、同じ手順を踏むこと自体が難しくなります。逆に、通信が届かない場所や、データを外へ出せない事情のある現場で定型的な文書を書いているなら、条件はかなり近いと言えます。
一方で、小さなモデルは扱える範囲を意図的に狭めることで端末に収まっています。幅広い話題への対応や込み入った判断まで一台の端末に求めると、期待は外れやすくなるはずです。端末上で動かす以上、現場で使っている機器の性能が前提条件になる点も、検討の初期に確かめておきたいところ。まずは、毎回ほぼ同じ形式で書かれている書類を一つ選び、それが書かれている場所に通信が届いているかを見に行く。応用できるかどうかは、その一点でかなり絞り込めます。
この事例は2025年1月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:文書・ナレッジ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
株式会社ヘッドウォータース
AIソリューション事業を手掛ける企業。代表取締役は篠田庸介。本実証では、オフライン環境のデバイス上で稼働する業務特化型生成AIアプリケーションの開発、量子化技術による処理の軽量化、AIコンサルタントによる伴走型支援(ワークフロー分析・PoCの実施評価・アジャイル開発の進行管理)、ファインチューニング環境構築などの技術支援を担当。
日本航空株式会社
出典・参考情報
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