全従業員の全業務について工数を計測し、可視化してから着手先を決めるという順序が、この取り組みの土台になっています。個別業務の自動化から入れば、目に見える成果は早く出ますが、それが会社全体の時間の使い方を変える一手かどうかは分かりません。先に全体の分布を押さえてから構造的なボトルネックを特定する進め方は、投じた労力が全社の数字にどうつながるかを、あらかじめ説明できる状態をつくります。飲食業界向けにサービスを提供する立場から、まず自社の生産性に向き合うという発想も、この順序と地続きです。
使う側の環境整備を、適用と同時並行で進めた点も見逃せません。独自のプロンプト共有システムは、うまくいった指示文が個人の手元に留まらず、社内で使い回せる資産に変わる仕組みだと読めます。そこに安全に利用するためのルールと制度、さらに非エンジニア向けの研修を重ねた構成は、「AIが得意な一部の人が代行する」状態を避け、各部門の担当者が自分の業務を自分で置き換えられるところまで引き上げる意図によるものではないでしょうか。全社横断で各部門から担当者をアサインした体制も、この狙いと噛み合っています。
求人原稿制作での適用先の選び方にも、判断の跡がうかがえます。狙いを定めたのは原稿を書く作業そのものより、営業担当とライターのあいだで交わされる制作依頼というプロセスの受け渡し部分でした。人から人へ情報が渡る接合部は、待ち時間や書き直しが溜まりやすく、AIの介在で効きやすい領域です。しかも全国一斉ではなく関東の一部エリアに限定した半自動化テストにとどめており、品質の確かめ方を持たないまま範囲を広げないという慎重さが働いています。