効いているのは、サプライチェーン全体をひとつの巨大な最適化問題として解こうとせず、自動発注、棚割、需要予測にもとづく在庫コントロール、生産・出荷計画といった業務の単位でAIを分け、それらを連鎖させた設計だと考えられます。DTC-SCMと呼ばれる連鎖型のAIエージェントは、それぞれが自律的にタスクを進めながら、業務と業界をまたいで判断の結果を受け渡していきます。単位を分けた効果は導入のしやすさにも及びます。小売、卸売、メーカーのどこから使い始めても機能として成立するため、取引先すべての足並みが揃うのを待たずに入口を作れるからです。
もうひとつの要因は、AIに判断させる前に、現実の流れを写し取る作業を置いたことです。担当者も会社も異なるがゆえに全体像が見えにくかった需要・発注・在庫・棚割・物流・店舗作業の各工程が、デジタルツインによって同じ土台の上に並びます。発注の出し方を変えれば物流の波が変わり、その先の店舗の作業量まで動く。そうした連鎖をデータの上でたどれる状態を先に用意したことが、どこかの部分最適を誰かに押し付ける形を避ける条件になったのではないでしょうか。
実験の場を、実際に商品が動いている店舗に置いた進め方も見逃せません。AI技術を担うNTT AI-CIXと、小売の現場に根ざしたRetail AIが組み、検証の舞台をトライアルホールディングスが引き受けるという役割分担のもとで、机上の試算ではなく日々の売り場で手応えを確かめる形が取られています。効率化の見通しが立った段階で新会社Retail-CIXを立ち上げ、そこからサービスとして外に広げるという順序も、検証と事業化を混ぜないための選択と読めます。