実施 2025.10 ・ 更新 2026.08.17
Nikeの会話型AI検索とアスリート発想を融合したシューズ試作の共創プロセス
企業規模:1,000人以上
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 検索フィルターで客が商品にたどり着けない
- 曖昧な要望を聞き出す接客が属人化
- デザインの新しい発想が出てこない
どのようなAIの取り組み?
会話型AIと生成AIを、アプリ内検索・広告での接客・製品デザインの三つの場面に組み込み、アスリートとの共創による試作にもつなげたAI取り組み
業種
スポーツウェア製造・小売(アパレル)
取り組み領域
アプリ内検索/広告接客/製品デザイン
使ったAI
会話型AI(調整した基盤モデル)・大規模言語モデル
主な成果
会話型の商品検索が初期評価で好感触、AI共創による試作品が誕生
スポーツウェア大手のNikeは、顧客との接点と製品づくりの両方にAIを組み込む取り組みを進めています。iOS版のNike Appには会話型AI「NikeAI Beta」を搭載し、「レース用のランニングシューズ」「特定の色の商品」といった話し言葉に近い問いかけから意図をくみ取って商品を提案する仕組みを用意しました。広告・マーケティングの領域では、韓国のNaverが提供する大規模言語モデル「HyperCLOVA X」を基盤とする「CLOVA for AD」を採用し、仮想のブランドアンバサダーとして働く「BrandChat」が検索ユーザーと対話します。製品デザインでは「A.I.R.(Athlete Imagined Revolution)」として、トップアスリートの声とAIが出したコンセプトを掛け合わせ、社内のデザイナーが試作品に仕上げる工程を組み立てています。
出典:How Nike is using AI 発行元:Digital Commerce 360
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
業績の回復と収益の向上を目指すなかで、顧客体験の向上、ブランドとの結びつきの強化、魅力ある製品開発が同時に課題となっていました。従来の検索フィルターやデザインの進め方では、多様化する顧客のニーズやアスリートの細かな要望に素早く応えることが難しくなっていた、というのが出発点です。
編集部の見立てでは、ここでの困りごとは「探し方」と「作り方」に共通する、言葉になりきらない要望の扱いにあったのではないでしょうか。条件で絞り込むフィルターは、色やサイズが決まっている人には強い一方で、「レースで速く走りたい」という段階の人を取りこぼします。アスリートの要望も似た構図で、感覚的な言葉のままではデザイン案に変換されにくい。不足していたのは商品数でも技術力でもなく、曖昧なままの要望を受け止めて具体へ橋渡しする経路だったと考えられます。
どうやって、うまくいったのか
ブランドのDNAを理解する専門家が基盤モデルをファインチューニング(自社のデータで学習し直し、用途に合わせて調整すること)した、というつくり方が、この会話型検索の要になっていると考えられます。汎用のモデルをそのまま載せれば、言葉の理解はできても、どの商品をどう薦めるかという判断がブランドの文脈から外れます。「レース用」という一語の裏にある用途や条件を自社の商品体系に結び付けて解釈するには、モデル側に固有の知識を教え込む工程が避けて通れません。会話で探せること自体よりも、返ってくる答えがブランドの世界観の内側に収まるよう作り込んだ点に、この設計の狙いがあります。
領域ごとにAIの土台を使い分けた判断も見逃せません。自社アプリの検索体験は独自に調整した基盤モデルが担う一方、広告・マーケティングでは韓国のNaverが提供するHyperCLOVA Xを用いた「CLOVA for AD」を採用し、仮想のブランドアンバサダー「BrandChat」が検索ユーザーとの対話を受け持ちます。すでにユーザーが集まっている場所の言葉づかいや検索の習慣に合わせるなら、その地域のプラットフォームが育てたモデルに乗るほうが、接点として無理がありません。すべてを自前で統一せず、接点の性質に応じて外部の基盤とパートナーの力を借りる割り切りが、複数領域への展開を可能にしたのだと見ています。
A.I.R.のプロセスでは、AIを発案の相手役に置き、最終的な形は人が決めるという役割分担がはっきりしています。トップアスリートのフィードバックが起点にあり、AIはそこからコンセプトを広げる役を担い、デザイナーが取捨選択してプロトタイプへ落とす。この三段構えは、AIの出力をそのまま製品にしないという意味で、品質に対する責任の所在を人の側に残す構造でもあります。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
NikeAI Betaでは、直感的な会話を通じて求める商品にたどり着ける導線が生まれ、初期の反応として非常に良好な手応えが得られている段階です。デザインの面では、アスリートの要望とAIのアイデアを融合させることで、これまでにない革新的なシューズのプロトタイプが生まれ、2024年のパリオリンピックでの展示を通じてブランドの先進性を示す機会にもつながりました。数値による効果は示されておらず、現時点では初期段階の評価にとどまります。
うちでも使える?
応用しやすいのは、顧客が自分の要望を条件に翻訳しきれない商材です。インテリアや注文住宅のように「こんな暮らしがしたい」という段階から相談が始まる領域なら、対話で意図をくみ取って候補を絞る仕組みが、接客担当者の役割の一部を受け持てる余地があります。デザインの共創も、専門家や利用者の感覚的な要望を出発点に案を広げたい場面であれば、規模を変えて持ち込めるでしょう。
一方で、条件がそろわなければ同じようには機能しません。この事例の会話型検索は、自社商品の知識をモデルに教え込む工程と、返ってきた答えがブランドの世界観から外れていないかを見張る体制があって初めて成り立ちます。商品情報が担当者の頭の中や散らばった資料にとどまっている状態では、教え込む材料そのものが用意できません。まずは、自社の商品説明が「型番や仕様の言葉」ではなく「どんな場面で使うかの言葉」で書かれているか、主力商品を一つ選んで確かめてみてはどうでしょうか。
この事例は2025年10月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
AIツール・サービスの提供形態
導入部門・データ活用
導入部門:マーケティング
活用したデータ:画像・動画・3D
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
Nike
スポーツウェア・アパレル大手。Jordanスニーカーやメジャーリーグベースボールのジャージなどを展開し、Digital Commerce 360の北米オンライン小売ランキングで13位(同社はNikeの2025年オンライン売上を81億5000万ドルと予測)。2025年に事業立て直しを進め、2026年度第1四半期(8月31日締め)に2024年度第3四半期以来はじめて前年同期比増収となった。
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