実施 2024.04 ・ 更新 2026.08.17
ダイキン工業と日立、熟練者の勘を学ぶ設備故障診断AIの実証で回答精度90%超
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- ベテランの勘が引き継げない
- 設備が止まると原因特定に時間がかかる
- 人の入れ替わりで品質がぶれる
どのようなAIの取り組み?
ベテラン技術者の勘やコツを言葉にしてAIに学ばせ、工場の設備故障診断を支援するAIエージェントの試験運用に踏み出した取り組み
業種
空調機器製造(製造業)
取り組み領域
工場設備の保守・故障診断
使ったAI
設備故障診断AIエージェント(対話型AI)
主な成果
実証実験で回答精度90%以上、回答時間10秒以内
ダイキン工業は海外売上比率が85%に達するなかで、世界各国の製造拠点で同じ品質を保つことを課題としていました。人材の流動性が高い海外工場では、時間をかけて育てた技術者が離職する例も少なくなく、作業の標準化と自動化が急がれていました。設備の故障による製造ラインの停止も、時間とコストの損失につながっていました。そこで同社は環境の変化に対応しながら稼働し続ける「止まらない工場」を掲げ、日立製作所との協創プロジェクトとして、堺製作所 臨海工場で設備故障診断を支援するAIエージェントを開発し、試験運用に入っています。技術者がタブレット端末に故障の状況を入力するとAIが原因と対策を提示する仕組みで、過去の保守・保全記録に加え、ベテランが設備図面をどう読み、故障をどう分析するのかという考え方まで形式知化して学習させている点が特徴です。
出典:追い風到来。AIで強みを発揮するのは、実は日本企業だった:お客さまとの協創による価値創出(事例):コネクティブインダストリーズ:日立 発行元:株式会社日立製作所
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
海外売上比率が85%まで高まる一方で、各国の工場が同じ品質を出し続けられるかどうかが問われていました。海外拠点では人の入れ替わりが早く、育成した技術者が離職してしまう。経験の浅い技術者が多い現場では、設備が止まったときに原因へたどり着くまでの時間が延び、それがそのまま生産の損失になっていました。
編集部の見立てでは、ここでの困りごとの本質は技術者の人数でも教育時間の不足でもなく、故障を切り分けるための判断が特定の個人に貼り付いたままだったという、知識の置き場所の問題です。手順書に残っているのは作業の順番であって、図面のどこを疑い、何から確かめるのかという判断そのものではありません。個人に紐づいた判断は、その人が現場を離れた瞬間に拠点から消えてしまう。育成の速度を上げても人材流動の速度に追いつかない構造が、その根にあったのではないでしょうか。
どうやって、うまくいったのか
学習させる対象を、過去の保守・保全記録から判断の道筋そのものへ広げた設計が、この取り組みの中核にあります。記録を読み込ませただけでは回答精度が不十分だという見極めが先にあり、そこで着目されたのが、設備図面の読み方や故障分析の考え方という、ベテランの頭の中で動いていた手続きでした。起きた事象と答えの対応関係を覚えさせるのではなく、原因を絞り込む筋道を覚えさせる。この切り替えがあったからこそ、初めて直面する事象に対しても筋の良い解決策を推論できる余地が生まれたと考えられます。
暗黙知の形式知化を、現場任せにも技術側任せにもしなかった役割分担も効いています。日立製作所が持つ製造現場のOT(設備の制御・運用)側のドメインナレッジとIT側の技術を掛け合わせる形をとったことで、現場が語る勘やコツをAIが学べる形へ翻訳する担い手が置かれました。勘やコツは、聞かれ方が的確でなければ言葉になりません。設備の制御と運用を理解している相手だからこそ、なぜそこを見たのかまで引き出せる。協創という進め方の実質は、この点にあったと見ています。
タブレット端末に状況を入力すればその場で答えが返るという入り口の作り方も、実運用を成立させる条件でした。設備が止まっている最中の技術者には、資料を探して読み込む余裕がありません。答えを受け取った技術者がその内容から学び、使われるほどに現場の知見が積み上がっていく循環は、この使われ方の設計から生まれたものと言えます。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
試験運用の段階で、故障の原因特定から対策の実行までにかかる時間は大幅に短縮されています。実証実験では回答精度90%以上、回答時間10秒以内という水準が示されました。さらに、故障が起きてからの対応にとどまらず、不調を事前に予知して手を打つ運用も動き始めています。定性面では、AIの提案を通じて熟練技術者の知見が現場へ伝わり、若手技術者のスキル向上に結びついています。AIが熟練者の知識を学び、その提案から技術者が学び、AIがさらに賢くなるという教え合いのサイクルが現場に生まれています。
うちでも使える?
応用が利きやすいのは、判断の根拠を後から言葉にできる仕事です。この事例で形式知化されたのは、図面という共通の資料をどう読み、どの順で原因を絞るのかという手続きでした。設計書や検査記録、伝票といった手元の資料をもとに判断している業務であれば、その読み方を書き出すところから同じ道筋をたどれます。
一方で、そのまま持ち込みにくい条件もあります。音や振動、においのように感覚で異常を捉えている判断は、根拠として指させる資料が存在しないため、言語化の入口自体が見つかりにくい。また、この取り組みでは設備の制御・運用に通じた相手が聞き手となってベテランの経験を引き出しており、社内だけで進めるなら、誰がその聞き手役を担うのかを先に決めておく必要があります。
まず試すなら、直近に起きた設備トラブルを一件だけ選び、ベテランが最初にどこを見て、何を疑い、次に何を確かめたのか、その順番を聞き取って残してみてはいかがでしょうか。
この事例は2024年4月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:文書・ナレッジ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:テキスト・言語AI
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
株式会社日立製作所
製造現場や社会インフラなどの高信頼システムを開発してきた知見と技術を持ち、現場を熟知した技術者が多数在籍する企業。2023年に生成AIの利活用を推進する「Generative AIセンター」を新設し研究開発を進めるほか、顧客のデータから価値を創出するデジタル技術を活用したソリューション・サービス・テクノロジー「Lumada」で顧客のデジタルイノベーションを支援している。今回はインダストリアルAIビジネスユニット トータルシームレスソリューション統括本部 TSSコンサルティング本部がダイキン工業との協創に参画し、設備故障診断AIエージェントの開発を支援した。
ダイキン工業株式会社
出典・参考情報
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