実施 2023.03 ・ 更新 2026.08.17
横浜ゴム、AIが探した要因に人が解釈を加えるタイヤ設計の進め方
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- ベテランの勘に設計が左右される
- 試作のやり直しに時間がかかる
- データはあるが活かせていない
どのようなAIの取り組み?
AIが自動で洗い出した重要な要因に開発担当者が解釈を加え、タイヤの設計と製造プロセスの改善につなげたAI取り組み
業種
タイヤ・ゴム製品製造(製造業)
取り組み領域
製品設計・製造プロセスのデータ分析
使ったAI
dotData(重要な要因を自動抽出するAI分析基盤/NEC提供)
主な成果
試作前に決まる設計因子から制動距離との関係式を導出
横浜ゴムは、タイヤの設計と製造の現場にNECの分析基盤dotDataを取り入れ、性能を左右する要因をAIに自動で洗い出させる進め方に切り替えました。高性能タイヤの設計では、試作評価で集めた各工程のデータを投入し、AIが抽出した特徴量(結果を左右する要因の候補)にプロジェクトメンバーが解釈を加えて次の試作へ反映する循環を組み立てています。ゴムを混ぜ合わせる工程では、ロータの回転速度や消費電力、混合時間、外気温といった条件と、出来上がったゴムの物性値との関係を分析。スタッドレスタイヤでは、氷の上でのブレーキ性能に効く因子を過去の試作評価データから割り出し、重要な因子と制動距離の関係を式の形にまとめています。同社はこの進め方を「人とAIの協奏」と呼んでいます。
出典:「人とAIの協奏」で目指すものづくり革命 横浜ゴムが見据えるタイヤ開発の未来図とは 発行元:日本電気株式会社
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
同社は早くからデータ分析やAIを業務に取り入れてきました。それでも、一度に扱える因子の数には制限があり、分析にかける因子は、タイヤという対象にもデータ分析にも通じた人が選ばなければならないという制約が残っていました。
編集部の見立てでは、ここでの困りごとは分析の精度そのものではなく、分析の入り口が特定の人に握られていた点にあります。何を見るべきかを決める工程が少数の熟練者に依存していれば、その人の経験の外側にある要因は、そもそも検討の土俵に上がりません。市場ニーズが多様になり、開発を早めながらグローバルに同じ品質を保つことが求められる状況では、この入り口の狭さが、そのまま開発スピードと品質の安定度の上限になっていたのではないでしょうか。
どうやって、うまくいったのか
AIには要因の候補を挙げさせ、その意味付けは人が担うという役割の切り分けが、この取り組みの背骨になっています。dotDataは重要な特徴量を自動で発見・抽出しますが、抽出された要因がなぜ効くのかを説明し、次に何を試すかを決めるのはプロジェクトメンバーです。判断までAIに委ねてしまうと、出てきた答えを現場が扱いきれずに終わりがちですが、解釈の権限を人の側に残した設計は、AIの出力を現場の打ち手へ翻訳する経路をあらかじめ確保しています。
試作評価データの投入から、抽出、解釈、次の試作への反映までをひと続きの循環として組んだことも効いています。一度の分析で正解を当てにいくのではなく、試作を重ねるたびにデータが積み上がり、次の分析の材料になる形にしたため、回すほど手掛かりが増えていきます。属人化した設計を変えるには経験に代わる蓄積が要りますが、このやり方はその蓄積を通常業務の流れの中で作り出します。
分析の対象に選んだ変数の性質も見逃せません。ゴムの混合工程で扱ったロータ回転速度や消費電力、混合時間、外気温は、いずれも製造中に測れて、かつ現場で動かせる条件です。スタッドレスタイヤの設計では、タイヤを試作する前に決められる設計因子に絞って制動距離との関係を定式化しており、結果が出てからでは手の打ちようがない変数ではなく、事前に握れる変数へ分析を寄せています。この絞り込みが、分析の結果をそのまま次の設計判断に差し込める形にしたと考えられます。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
高性能タイヤの設計では、試行錯誤を重ねるなかで性能と安定性が段階的に高まりました。ゴムの混合工程では、物性値を狙い通りに推移させるための因子の特定に至っています。スタッドレスタイヤの設計では、試作前に決められる設計因子をもとにした、見通しの良い関係式が得られました。さらに、データと向き合う過程で新たな気付きが生まれ、設計プロセスを変えるためのデータ活用が一気に加速するという副次的な効果も出ています。個別の答えではなく、次の設計判断に使える形の知識が残った点に、この取り組みの性格が表れています。
うちでも使える?
応用が利きそうなのは、工程ごとに条件の数値が記録として残り、その結果の良し悪しを指標で測れる仕事です。試作や製造のように、条件を変えて結果を見る営みを繰り返している領域なら、AIに要因の候補を挙げさせ、人が意味を確かめるという分担はそのまま持ち込めます。逆に、条件の記録が担当者の手控えに散らばっていたり、結果の評価が人の感想に留まっていたりすると、AIが読む材料が揃いません。もう一つ難しいのは、挙がってきた要因を試す場がない場合です。この事例では次の試作という検証の受け皿があったからこそ循環が回っており、仮説を確かめる機会が年に数えるほどしかない業務では、同じ速さは見込めません。
始めるなら、直近数回分の作業記録から、条件と結果が対になっている数字を一つのテーマ分だけ抜き出し、表の形に並べてみるところから。AIに渡せる状態になっているかどうかは、その時点で見えてきます。
この事例は2023年3月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AIツール・サービスの提供形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:数値・Excel・ログ
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:AIモデル・構築手法
AIモデル・ツール
プロジェクト実施・導入企業
横浜ゴム株式会社
グローバルに事業を展開する日本を代表するタイヤメーカー。一般乗用車用タイヤ、モータースポーツ用タイヤ、スタッドレスタイヤなどの各種タイヤ製品のほか、タイヤホイール製品、ゴルフ関連製品、工業品・航空部品などの分野でも事業を展開する。研究先行開発本部にAI研究室を置き、マルチスケール・シミュレーションやマテリアルズ・インフォマティクスを活用した材料開発に取り組み、2020年にはAI利活用構想「HAICoLab(ハイコラボ)」を立ち上げている。
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