実施 2023.01 ・ 更新 2026.08.17
富士通と理研、生成AIでタンパク質の形の変化予測を1日から2時間へ
プロジェクト期間:半年〜 1年
※イメージ画像です

取り組み概要
やさしく事例解説
プロジェクト解析
実施・導入企業
こんな方へおすすめのAI解説です
- 複雑なデータの分析に時間がかかる
- 専門家の勘に頼る試行錯誤が続く
- 研究開発の期間と費用を減らしたい
どのようなAIの取り組み?
生成AIで電子顕微鏡画像からタンパク質の立体的な形の変化を推定し、予測時間を1日から2時間へ縮めたAI取り組み
業種
創薬・医薬品研究(研究開発)
取り組み領域
創薬研究/タンパク質の立体構造の解析
使ったAI
生成AI「DeepTwin」(画像から立体構造を推定するAI)
主な成果
構造変化の予測時間を1日から2時間へ短縮
富士通と理化学研究所は、創薬にかかる期間と費用を圧縮する次世代のIT創薬技術を目指して共同研究を進めました。持ち寄られたのは、富士通の生成AI技術「DeepTwin」と、理化学研究所が蓄積してきた創薬分子シミュレーションの知見です。開発された技術は、標的となるタンパク質を撮影した大量の電子顕微鏡画像から、そのタンパク質が取りうる複数の立体的な形と、それぞれが現れる割合を推定します。あわせて、原子ごとに3次元の座標を持つ情報量の多いデータを少数の特徴量へ変換し、化学分野で使われてきた反応経路の分析を当てはめられるようにしました。分析の結果は生成AIによって元のデータへ戻され、構造の変化が連続的な変形として示されます。大量の画像処理にはスーパーコンピュータ「富岳」が使われました。
出典:富士通と理化学研究所、独自の生成AIに基づく創薬技術を開発 : 富士通 発行元:富士通株式会社
やさしく事例解説
何に困って、AIを入れたのか
タンパク質は生体内でさまざまな形をとりながら他の分子と関わっているため、ウイルスの働きを抑える薬などを設計するには、標的の形と、それがどう変化するのかを正確につかむ必要があります。ところがタンパク質は原子ごとに3次元の座標を持つ情報量の多いデータで、広い範囲にわたる構造変化を捉えるには高度な専門知識と試行錯誤が欠かせず、結果として研究期間も開発費用も膨らんでいました。
編集部の見立てでは、この困りごとの本質は計算の重さそのものではなく、扱う対象が人の直感の届かない次元に置かれていたことにあります。試行錯誤という言葉が示すのは、どこを見れば構造変化の手がかりがあるのかという当たりを、研究者の経験に頼って付けていた状態です。つまり研究の速度を決めていたのは設備でも人数でもなく、高次元のデータを読み解ける少数の熟練者だった。属人化の問題が、そのまま開発期間の長さとして表れていたのではないでしょうか。
どうやって、うまくいったのか
高次元のデータを高次元のまま解こうとせず、本質的な性質を保ったまま少数の特徴量へ落とし込んだ変換の設計が、この取り組みの起点になっています。原子ごとの座標という膨大な情報を扱いやすい表現に置き換えたことで、化学の分野で長く使われてきた反応経路の分析、つまりある状態から別の状態へどう移り変わるかを追う手法を、そのまま当てはめられるようになりました。注目したいのは、タンパク質という難しい対象のために新しい解析理論を一から立ち上げるのではなく、既にある分析手法が働く土俵へデータの側を寄せたという判断です。手持ちの知見を捨てずに活かす方向へ設計を振ったことが、開発の見通しを立てやすくしたと考えられます。
低次元で得た分析結果を、独自の生成AIによって元の高次元データへ復元する往復の構造も効いています。次元を落としたままでは、研究者が見て判断できる情報にはなりません。復元を経て、構造の変化が3D密度マップの連続的な変形として提示されることで、抽象的な計算結果ではなく形の移り変わりとして確認できる出力になりました。研究者の目で妥当性を検証できる形式に着地させた点が、この技術を実際の研究の場に載せる条件になったはずです。
役割を分けた共同研究の組み立ても見逃せません。生成AIの技術と、創薬分子シミュレーションの知見は、どちらか一方だけでは成り立たない関係にあります。何を本質的な性質として残し、何を削ってよいのかという判断は、対象の科学的な理解がなければ下せないからです。加えて、大量の電子顕微鏡画像を処理する計算基盤としてスーパーコンピュータ「富岳」が組み合わされ、規模の面での制約が外されています。
具体的に、どんな成果が出たのか
改善・向上したこと
推進したこと
この事例で出た成果
従来の手順と比べて10倍以上の速さで、大量の電子顕微鏡画像からタンパク質の形態と構造変化を推定できるようになりました。タンパク質の合成に関わる特定のタンパク質へ実際に適用した検証では、構造変化の予測に要する時間が1日から2時間へと縮まっています。細菌やウイルスなどの標的タンパク質に結合する薬剤の設計過程が変わり、製薬企業の創薬プロセスを速める効果については、現時点では期待されている段階です。今後は標的タンパク質と抗体の複合体の解析や、分子の大域的な構造変化の予測へと広げていく方針が示されています。
うちでも使える?
応用できるかどうかを分けるのは、扱っているデータが「複雑だが、その裏に一定の規則性がある」種類かどうかではないでしょうか。今回の手法の核は、情報量の多いデータを少数の軸へ置き換え、既に確立した分析手法に載せ、結果を元の形へ戻すという流れにあります。同じ構図は、材料の組成と特性の関係を探る場面や、多数の測定値が絡み合う条件の解析など、理論としての分析手法はあるのにデータの形式が合わず活かしきれていない領域で成り立ちやすいと考えられます。
一方で、学習に使える高品質なデータをまとまった量そろえられなければ、この方式は組み立てられません。今回でいえば電子顕微鏡画像にあたる、精度のそろった観測データです。もう一つの前提は、AIが返した結果が妥当かどうかを見極められる専門家が社内にいること。復元された結果を誰も評価できなければ、速くなった分だけ判断のつかない出力が積み上がります。まず確かめたいのは、自社が日々ためているデータが、後から分析に使える精度と形式で記録されているかどうか。ここが崩れていると、手法の選択以前でつまずきます。
この事例は2023年1月時点の情報です。AI分野は変化が速いため、現在は同様の取り組みをより短い期間・少ない負担で実現できる場合があります。
プロジェクト解析
プロジェクト内容
AI導入・支援形態
導入部門・データ活用
導入部門:全社共通・汎用業務
活用したデータ:画像・動画・3D
採用したAI技術・ツール
採用したAI技術:画像AI
AIモデル・ツール
連携ツール
連携したシステム・外部サービス
プロジェクト実施・導入企業
富士通株式会社
本社を東京都港区に置き、代表取締役社長は時田隆仁。理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS)HPC/AI駆動型医薬プラットフォーム部門と2022年5月から次世代IT創薬技術の共同研究を実施し、独自の生成AI技術「DeepTwin」やAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi (code name) - Fujitsu AI Platform」を展開。AIおよびHPCを強みとする。
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